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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第四話 「ピジョン・ブラッド」

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 十数分程階段を上った先で、ようやく十字軍はギルべぇの助けもあって比較的視界の開けた五角形の金網を剥がし取り、ガンメタルを穿つ風穴状の五角形の底辺に腰を下ろした。 最後尾のフェリクスが底辺に降り立つと、直後ライラックの螺旋階段は霧散した。
 糸の切れたマリオネット宜しくくずおれるローデリヒをエリゼベータは慌てて支える。 肩で呼吸するトーリスの息は酷く荒い。 前も背も返り血に塗れたまま、背負っていた少年を壁に座るような形でとりあえず寄り掛からせる。 そんな親友を一瞥し、ワンレンの金髪を燻らせフェリクスは近寄ると、バッシュに視線を向けた。 トーリスの手元にソウルジェムが戻ると、柔らかい緋の魔法が遺体の傷を塞ぎ、今にも倒れ込みそうであった彼らに活力を漲らせていく。 一瞬ジェムの灯が消えかかったと思うと、再びつい先ほどの様な強い輝きを見せた。 警告灯染みた光。 一様に照らされるローデリヒとエリゼベータの瞳に陰りが姿を現す。 他愛のない会話を交わす余裕もない。 ただ少年十字軍は僅かに休息を取るのみだ。
 しかしそのひと時は長くは続かない。 轟音。 一同は一斉に巨大恒星の光る方を見た。 響く筈のない汽笛は外壁を揺さぶり喧しく十字の瓦礫を散らかしていく。 あまりの振動に魔法少年の死体は短い金髪を揺らし床にへたれ込む。 やけに震える妖精の触手。 直後光芒と明らかに性質の違う一筋、そして、
 「? 何だ…ッ」
突如眼前を抉った。 原色の突風。
台風の真只中に晒されたかのような暴風は、濃い黒煙を伴って尾を引き、魔法少年達の視界を僅かな時間、しかしほぼ完全と言っても良いほどに奪い尽くす! 彼らの肉体は眼に異物が沁みつく激痛に耐え切れず、二次被害的に悲鳴と灰混じりの涙が溢れ出した。 流せど流せどこびり付いた灰の淀みは落ちる事はない。 汽笛の大音量を甲高いフェリクスの声は苦しく潜り抜ける!
 「アレが使い魔っつー!? ありえん! まじありえんし!!」
使い魔は一直線に浅葱のレール上を駆けガンメタルに激突! 凄まじい衝突音と共に半径三メートル強の亀裂と歪な窪みを残し、異質な血飛沫を撒き散らしながら湾曲した深淵へと落ちていった。
 あの突進に直撃すれば一溜まりも無いだろう…。 フェリクスの次に気を取り戻したのは反対側の壁に凭れていたローデリヒであった。 眼球周囲への重点強化で強引に、激痛の黒を洗い流す荒療治の跡が未だ頬に幾筋も残っていた。 得物を支えにエリゼベータも次いで立ち上がる。 美しさを残しながらも苦痛に歪む表情。 トーリスも顎へと零れる液を拭い去った。 手の甲を濡らす薄墨を見、平時の姿で居る場合ではない。 彼もそう理解した。 少年の身を這う緋の妖光は戦装束となり堅牢な甲冑を要所に編み込んだ。 危険な使い魔とやり合っても益はない。 一刻も早く魔女を倒し、結界から逃れなければ!
 「行きましょう!」
ライラックの魔法少年は腰の羊皮紙にgrandioso【壮大に】の記号を書き、勇ましさを取り戻した琥珀の魔法少女が激励を上げる。 金髪の華奢な親友を庇いつつ、緋の少年は再び浅葱の魔法少年を背負い、魔法少年十字軍は中核の巨大恒星へ向かい進軍を始めた。 確証等無い。 ただ彼らの第六感がそこに魔女がいるのだと告げるのみだ。 五角廊に転げ落ちていた、瓦礫から覗く無数の十字は先の使い魔に薙ぎ払われたのか、多くはひしゃげた様に損壊している。 ギルべぇの歩みと共に立ち止まる軍。 遠目に見えたエーデルワイスの接近だ。
ライラックと琥珀は威嚇を続けるが、幼い子供の水彩画の様にバランスの狂った白い花は高速回転を続けたままゆっくりと彼らに接近を続けてくる。 魔女との戦いに関して経験の乏しいトーリスは単なる魔女的オブジェの様な花につい見惚れていた。
 直後彼は後悔する。 汽笛が響き渡り、彼らの前に花開いたエーデルワイスは撃墜された。 撃ち抜いたのは魔法少年達ではない。 目を見開いた妖精の面持ちから汲み取れる。 巨大恒星から浅葱の一筋が伸びた。 寸前に察知したローデリヒは上体をしなやかに反らし、羊皮紙を振り翳して呪文を備える!
 「スピラーレ・ディ・ロンド【螺旋の輪舞曲】!」
流線を描き、極太ライラックがジャストタイミングで浅葱のレーザーサイトを穿つ! 続いて突風と共に列車使い魔が突進! しかし軍本隊の直前で停止し、螺旋状に高速回転する五線によって黒煙も切り刻まれ霧散した。 本来防御的な性質を持つ魔法ではないのか突進による衝撃は完全に抑え切れなかったが、それでも大きな負傷は辛うじて避けられた。 僅かに傾いての突進故、使い魔は隊の進路を塞いだまま身体の自由を奪われ蠢き始めたが、瞬く間も無く鈍重な琥珀の一閃は巨体へと伸びる!
 「アンティチーポ・シャルプ【鋭き進撃】!」
真横にスライスされた列車の爆発四散を横目に、少女の呪文は一拍遅れで十字軍兵たちの耳に届いた。 遊色と奇妙な欠片が混ざる血飛沫を直に浴び、ブレーキの様に床を踏み締めエリゼベータは留まった。
 「こんな奴が、ゴロゴロいるって言うんですか」
得物を振り、使い魔の血を払い落しての一言だ。 要所要所に緊迫が滲む。 それは他の面々も同じ事だ。

 彼らは斥候じみて飛び回るエーデルワイスを倒しつつ煙で黒ずんだ回廊を全力で走り抜けていく。 また同じ様な襲撃があったとて、同じ様に障害を撃ち払えるとは限らない。 進む程に増えていく外壁の銃痕と、見た事も無い不気味な文字のペイント。 浅葱の光に近付くに従い結界内の不気味さは増していく。
 視界が開けると広大な球状の空間に恒星が浮かび、不自然なほどに整ったドーナツ型の街路と、メビウスの線を延々と走る、玩具染みた車体に九個の点が描かれた列車の使い魔が浅葱の恒星を取り囲んでいる。 高空で自由飛行をしていた斥候エーデルワイスの動きが一瞬止まった。 魔法少年達の目が見開く。 気付けば無数のレーザーサイトに捉えられた、自分達の身体。 もう遅い、勘付かれた!

 対処の間もなくローデリヒとエリゼベータは右、ギルべぇとフェリクス、そしてバッシュを背負ったトーリスは左と二手に逃避した。 先の使い魔数体は五角形に突っ込み爆発四散!
 嵐の様な突撃をローデリヒ達はどうにか潜り抜けるが、重荷を背負うトーリス達の足捌きは覚束無い! 五角形ハニカムの外壁を伝うように使い魔から逃れる二組! 魔法的身体強化に因った俊足でローデリヒ達、特にエリゼベータは爆発的速度で二手に分かれた筈の緋の少年と合流寸前だ。 使い魔に一矢報いる余裕も無く、これでは彼らの逃げ場がない! 合流を避け琥珀とライラックはモトクロス染みて幾何学的外壁を駆け登る!
 戦装束に着替えたトーリスも背負った死体の為に機敏に動けず予想以上の消耗! 耳が張り裂けそうな激突音の連続で二人との意思疎通も計れない。 排煙もされず浅葱色に反射する薄墨が着実に視界を千切りつつあった。 緋の魔法少年は走り詰めながら背後の二人が追い付けているかを伺い、煙越しに見えるライラックと琥珀の閃光が驚くほどの速度で彼らを追い抜き、曲線を登り詰める様を伺うしかない。