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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第四話 「ピジョン・ブラッド」

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 対して巨大恒星への接近を試みようとしていたローデリヒ達であったが、既に球状の径部分にまで足が届きそうな程にハニカムを登り詰めており、降りてしまえばトーリス達諸共使い魔に吹き飛ばされて一巻の終わりだろう。 エリゼベータが背後を伺うとローデリヒは足下が時々ふら付き、足がぶつかりそうな程しか開いていなかった間隔も数mほどにまで伸びていた。 選択の余地はない、状況を打破しなければ全滅だ!
 もう一組を一瞥したエリゼベータは速度を維持し、空間中心点に向け得物を投擲し叫ぶ!
 「ステラ・アッチカート【くらまし星】!!」
本来は破壊力に乏しく時間稼ぎでしかない魔法だ。 しかし彼女の得物は細かく分裂し無数の小型ナイフに変化、逃げ回るトーリス達を避け、何十は下らない斥候エーデルワイスを次々と撃墜! 彼女は既に不格好なヘリもどきの脆さを見抜いていた!
 極悪な列車使い魔の連続突撃が止む。 安心するも束の間、過重衝撃に耐え切れず壁面は瓦解し始める! 足を踏み外すエリゼベータ、ローデリヒが手を掴むが疲れ切った彼の足は少女の体重すら支え切れず二人揃って落下した! ライラックの魔法少年を覆う様に幾つも金属塊が激突し悲鳴を上げる琥珀の魔法少女! 床に激突し瓦礫に圧殺されるまで僅かだ! 宙にペンが奔りライラックが伸びる!
 「サ… サゾラ・ディ・サルバダッジオ【命の綱】!」
五線ですらない帯状の光。 幾本も僅かに残った無傷の壁に張り付き彼らの落下地点に網を編む! 激突死は避けられたものの所詮急拵え、着地した途端網は呆気なく引き千切れ消し飛んだ。 ひび割れた眼鏡もそのままに少年は傷つく少女に肩を貸し如何にか瓦礫を避け切った。 一気に静まり返る空間に轟く悲鳴。 二人は揃って声の方へ向かう!

 「あいつは、ギルべぇは!?」
緋の少年は瓦礫の山を飛び回る。 崩壊直前までフェリクスの背後に付いていたギルべぇの姿が無いのだ。 親友も浅葱の魔法少年の遺体の傍で必死に辺りを見回すが気配はない。 まさか瓦礫の下に…
 「ッ痛… お前ら無事かよ? 無事だよな?」
額と右肩口、左膝から血を流しギルべぇは触手をくねらせる。 足取りの不安定な妖精を目にし、トーリスは喉元右のソウルジェムに触れ治療の魔法を施した。
表情が和らぐ銀髪の背後、トーリスは瓦礫に潰れた血飛沫と、覚えのある男の手が見えた気がしたが、疲弊しているが何事も無いフェリクスとギルべぇを伺い視線を戻すと血飛沫も手もそこには無かった。 気付かない内に俺も相当疲れてるみたいだ。 緋の少年はそう感じた。 近付くライラックと琥珀の妖光。 茶髪は手を振った。 先輩魔法少年達は駆け寄り答える。
 「良かった…!」
フェリクスを抱き締めるエリゼベータ。 顔は伺えないが、声は泣いている。 少し距離を置き、割れた眼鏡のままローデリヒは安堵している。 彼の左掌と、彼女の谷間に収まる魔石の輝きは明らかに曇りつつあった。 二人とも何事も無くと言うわけには行かなかったのだろう。 トーリスは二人の心中を推し測った。 漸く回って来た思考回路をフルに使い、ひとつの提案を強い口調で示す。

 「フェリクス、ギルべぇ。 二人は逃げて」
魔法が使えない二人を、いつまでも危険な場所に居させる訳にはいかない。 それは普通の中学生にとって至極真っ当な提案のつもりであった。 彼は続ける。
 「俺達で出口を探して、そこまで送っていく。 三人で魔女をやっつけるから」
この、そもそも魔女であるのかも判らぬ巨大恒星から、非武装の面々を引き離し万全の体制で改めて魔女を退治しようという考えは、決して間違ったものではない。 実際トーリスの想像では皆揃って賛成する光景が浮かんでいた。 だがローデリヒ達は顔を見合わせ気が気でないと言った様相である。 当人のフェリクスとギルべぇすらもだ。 目線で問うがエリゼベータ達は答えない。 一様に口をつぐむ四人。 つい不躾に彼は問う。
 「…なんだって言うんだよ」
 「俺達の傷一つ二つが、何だって言うんだよ? 怪我したって自分の魔法ですぐ治せる、俺達と違って」
眼鏡越しに冷たい視線が刺さる。
 「…違って、何だと言うのですか」
 「二人は、死んだら終わりだ。 怪我だって、手当てしないと治らない」
 「そんなの、わかってます。 でもトーリスさんは」
 「解ってないじゃないか」
荒れる声。 エリゼベータはぞっとし身を引いた。
 浅葱の恒星が浮き上がらせる、彼女達が彼に見た事の無かった、静かな激情。 トーリスは拳を握りしめ、堪えて声に出した。
 「…解ってないじゃないか。 二人は死んだら終わりなんだ。 死んじゃったら… もう逢えないんだ。 ちょっと魔法を使うから、なんだって言うんだ? 友達守るのが、何だって言うんだよ?」
不機嫌にローデリヒは眼鏡を直す。 眩しさに渋い目をしていたのだとしても、最早トーリスには関係ない。
 「止めなさい、時間の…」
 「止めるもんか! 友達より魔法が大事か? 魔法の為なら人も見殺しにするのか!? 俺達が魔法を使えなくなったって、元に戻るだけじゃないか! でも二人は、死んだら、死んだら二度と」
息を詰まらせ、青緑の目から大粒の涙を零し、茶髪の少年は張り詰めた感情を、漸く吐き出す。
「二度と、二人とは一緒に居られないんだから…」
ローデリヒは思わず口を覆う。 トーリスに視線を戻し、気付いた。
魔女やライバルとの戦いを幾度となく切り抜けたローデリヒ達と、数える程の諍いしか目にした事の無い、殆ど普通の学生である彼の死生観が違っていても、それは決して可笑しなことではない。
 ―そしてもう一つ、トーリスは知らないのだ。 まだ気付いてすらいないのだ。 魔法少年達と、ソウルジェムの秘密を。 そんな彼が持つ【緋のソウルジェム】の秘密を。自分達の意見と彼の意見の微妙な食い違い。 その原因に当たりを付けたローデリヒは一呼吸置き、再び思索を巡らせた。 彼を説得する手立ては、彼を安全な場所へ、魔女と遭うことの無い元の世界へ帰す方法は…
目をきつく閉じ見開くと、トーリスの喉元、緋の魔石は白い遊色を時々滲ませながら不安定な輝きを見せる。 本来あり得ない不気味な煌めき。 【彼】の不自然な消耗。 残された時間はあまりない―
 意志は固まった。 ローデリヒは後ろ手で魔法的ペンを取り、宙を探る様に小さく突く。 彼にしか感じ取れない、張りの良い一つの線。 なんの障壁でもない様に結界内を横断し、結界の外へと伸びる一本を丸で囲うと、線は音声波形状にぐしゃりと変形し脈動を始めた。 かなりの悪手、でも自分一人では間に合わない…

 「……さ…!」

ローデリヒの意識は鈍速化していた。 調律の魔法を扱い、探知の能力を尖らせた反動がまだ残っている。
 だから気付けなかった。 自身の外套を力尽くで引くエリゼベータの悲鳴に。 ある場に向かってギルべぇが全力で駆け舞い上げる砂煙に。 初めて見るフェリクスの弱々しい一言にも。
 やがて脳裏に、数え切れない感情が込み上げては刻まれ廻り出す。 見慣れてしまった光景の惨さ、魔法少年の世界の残酷さ…、 失いたくなかった物を失った、決して理解されない悲しみと苦痛を。