学園小話2
北極星 ……六年生と四年生の関係
好きです。
そう答えたとき、破顔一笑した人の顔はあまりに眩しくて、いとおしくて、ただ泣きたくなった。
普段は力任せ、といっても本人は加減しているつもりなのだろう掌が、優しく頭を撫でてくる。余計に涙が零れそうになって、止めてくださいと頭を振る。
人の心なんてお構いなしの暴君は、空いた手でぎゅっと抱きしめて何度も撫でてくる。
その掌に、声に、どうしていいかわからなくなる。
それでもいいんだと、あの人は笑った。
特には、何も?
首を傾げて答えれば、困ったように笑われて、ぽんと頭を叩かれる。
こういうときは、義理でも「尊敬しています」とか「好きです」と言うものだと、笑った顔で注意される。結局、この人は捻くれた私という存在が思いのほか可愛いらしい。
遠目から見れば美しい手も、筋張っていてあちこちに火傷の古い痕がある。飄々として天才なんて言われる人でも、やっぱり努力なしでは越えられないものがあるらしい。
とん、と胸の中に倒れこめば、どうしたとまた笑われる。
あやすように撫でてくる指先は、いつもならば後輩たちのもの。でも今は自分だけのもの。ねだるように胸に顔を埋めれば、美しい指が何度も髪を梳いた。
尊敬しています。
直立不動で答えると、学園一忍者していると噂される先輩は、満足げに頷く。それに小さく息を吐く。
突然、「お前は私の事をどう思っている?」と聞かれたら、出てくる答えなど唯ひとつ。変なことを言って機嫌を損なったら、ろくなことにならないに違いない。
もちろん、尊敬の気持ちに嘘はない。ただ、困った人だとも思う。不意に、困った先輩たちに振り回される同級生たちの顔が浮んで、なんともいえない気持ちになる。
委員会活動によって学園を支えている自負と誇りは、彼らにはありはしない。それは、この会計委員会のみ与えられる、大切な輝き。その誇りを胸に抱くことを教えてくれたのは、間違いなくこの人だ。
困った人だとか、辛いなとか、思うのはしょっちゅうだ。だけど、そんな思いを否定していったら、最後に残るのはやっぱり……。
尊敬しています。心から繰り返せば、真っ赤に顔を染めた先輩はそうかと横を向く。動揺は忍者にあるまじきことだが、そんな先輩を可愛いと思った。とても口には出せないけれど。