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学園小話2

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就職活動 ……2年後体育委員


「先輩はどうするんっす? 就職は?」
 裏々々山の麓でそれぞれが休憩を取っている中、三之助が質問と手を上げた。藪から棒に何を聞くのかと、滝夜叉丸は眉を顰める。
「……忍者に仕事先を聞くのは、マナー違反だと学ばなかったのか」
「いやー、興味のほうが勝って?」
 なぁ、と後輩たちに同意を求める。一人だけなら間違いなく滝夜叉丸に殴られて終了だから、考えたものだ。
「後学のためにも、教えといてくださいよ。うちの卒業生、結構引く手数多って聞きますけど?」
 三之助の言葉に励まされるようにして、本格的に、後輩一堂聞きたいですモードになっている。
 キラキラとした瞳を向けられれば、いつもの癖が出てしまう。いいだろうと咳払い、滝夜叉丸は立ち上がるとよく聞けと咳きばらう。おだてられ癖は、ついぞ六年間、治りはしなかった。

「まず、この忍術学園は実績が高いのだ。学園長先生も、アレでソレなりの方であるし、先生方も教師歴が長い。卒業生も多く外部で活躍している。そのため、関係の深い城などから求人が絶え間ないのだ。さらに、卒業生が直接スカウトに来ることもある。この忍術学園一の実力者である私も、当然声をかけられた」
 えっへんと胸を張る。これさえなければ悪くない先輩なのだがと、ため息が三方から零れた。
「そのほか、家業を継ぐものもいる。その場合、忍として城仕えはしないが内々に契約を結ぶこともある。この辺は人それぞれだな」
 実際のところ、卒業生の半分が城仕えをすればいい方なのだ。残りの半分は、町に戻る。だから毎年引く手数多になるのだが、その辺は彼らが六年になれば実感することだろう。
「それで先輩は?」
またも三之助が繰り返す。しつこいと溜息をつくが、黙っていても食い下がれるのは目に見えている。
「家に戻る」
「……意外っすね。てっきりどこかの城に勤めるもんだとばっかり思ってましたよ」
 だからその城以外に来年就職しようと思ってたんすよ、なんていけしゃあと続ける後輩の頭は思い切り殴っておく。一方で、じっとこちらを見てくる視線に、まだ聞きたいことがあるのかとちらり視線を送る。
「先輩のご実家って……武家ですよね? 武士になるんですか」
 剣豪を目指すという金吾は、六年間、忍として学んだあとでも間に合うのかと気になるのだろう。しかしそれに対する答えなど最初から持ち合わせていないから、首を振る。
「確かに私は武家の生まれだが、最初から平家の忍として育てられてきたからな。武士にはならない」
 ほかのものになりたくとも、最初から選択肢などないし、考えることも許されていない。ただそれはこの後輩たちに教えるものでもないので軽く肩を竦めて応えれば、金吾は残念そうに肩を落とす。

「じゃあ、下手したら先輩と卒業後に会うのは戦場かもしれないんですね」
 山鳥が啼く空の下、三之助は欠伸ひとつしながら暢気に言う。後輩たちはぎょっとしているが、こればかりは事実だからさらりと応える。
「そうだな。実家に戻る面々は、この学園とは無関係になるからな」
 木々を揺らす風は心地よいが、汗が冷えてきてそろそろ肌寒さすら感じ始める。四郎兵衛の身震いは、きっとそれも原因のひとつだろう。
「……それ、どういう意味ですか?」
「学園に来る求人は、どれも学園と好意的な関係にあるところからしか来ない。学園と好意的な場所同士が敵対関係になっていることは少ないから、いざという時の確率はぐっと下がる。しかし家に戻るものにはそういうものは無縁だ」
 だから敵対することもある。実際、そんな話は数年に一度は風の噂で流れてくる。
 一気に不安げになった後輩たちに、心配するなと笑いかける。
「あくまで可能性があるだけだ。それに、私はまだこの学園の生徒だからな。ちゃんとお前たちを守ってやる。手始めに、休憩を切り上げて学園に戻って塹壕を掘るぞ!」
 高らかに宣言すれば、一斉にブーイングの声が上がる。
「守ってねーじゃん!」
「黙れ。明日の授業で塹壕を使うのが何年生か言ってみろ、三之助。ひとりで掘らせてやってもいいのだぞ?」
 もちろん使うのは五年生だから三之助は冗談じゃないと黙り込み、残った面子は笑い出す。

 こうして笑い合った思い出がある限り、いつか敵対することがあってもいいのだ。
 それを伝えるには後輩たちは幼いし、なにより自分で見つけるべき答えだから、汗ばんだ前髪を掻き上げ空を見上げる。
 二年前、そう言って笑った人の笑顔が不意に思い出された。


作品名:学園小話2 作家名:架白ぐら