温泉旅行 前編
「え…これ、
もらっていいんですか?」
つぼみから温泉宿泊券を
もらって、すずめは驚く。
どういう風のふきまわしだろう。
「そう。私行けないから、
マムーと一緒に行って?」
「えっ////」
すずめはかぁっと赤くなる。
今どきのハタチにしては
なんて純情なんだろう、
とつぼみは思った。
「でも、おじさんが
ダメって言うだろうから
ゆゆかちゃん誘おうかな。」
すずめが言うと、
「あら、諭吉がマムーと
行けばいいって言ったのよ?」
つぼみはちょっとだけ
嘘をついた。
「えっおじさんが?!」
「どうしたんだろう…
何か変なもの食べたんじゃ…」
諭吉の言動に疑問を持つが、
それがホントだとしたら
本気で嬉しい。
大輝と旅行なんて、
高3の修学旅行以来だ。
しかも二人っきり!!
わ〜〜〜〜〜!!!
どうしよう!
「ありがとうございます!」
と遠慮なく宿泊券を
つぼみから受け取り、
すずめは早速大輝に、
『温泉宿泊券をもらったんだけど
一緒に行きませんか?』
とメールした。
大輝はすずめのメールを見た。
「なんで敬語?」
と首をかしげる。
すぐ大輝から
電話がかかってきた。
「宿泊券とか
どうしたんだよ。」
「つぼみさんからもらって…」
「二人分?」
「二人分。」
「行けるのか?」
「おじさんが大輝と二人で
行ってこいって
言ったって。」
「ウソだろ?」
いつも諭吉に監視されっぱなしなので、
大輝は疑って
手放しで喜べなかった。
「今年いっぱい期限だけど、
いつか行けそう?」
すずめはドキドキしてたずねる。
「…なんとかする。」
学校が忙しいが、
諭吉の気が変わらないうちに
実行したほうがよさそうだ。
あれこれ調整して、
世間では
夏休みに入る前の
7月の土日で行くことになった。
「楽しみすぎる!」
仕事を始めてちょっと
落ち込み気味だったすずめが、
毎日ウキウキでいるのが、
傍目にもわかり、
諭吉は複雑だった。
「すずめ…えっと、旅行は
行くのかい?」
諭吉が探りを入れる。
「うん!7月最初の土日にね。
ありがとう!おじさん。
大輝も喜んでた!」
「あ…そう、馬村くんとね。
そう。ゆゆかちゃん
じゃなくてね…」
「ん? どうかした?」
「いや、なんでもない。」
やっぱり二人で行くのかと
ショックを受けつつ、
旅行を止めたい衝動を
抑えるのに諭吉は
必死だった。
かわいい姪が、
他の男のものになっていく…
文句のつけようのない
男のものに。
ああああ。
娘を嫁に出す心境って
こういう感じかな、と
その日の諭吉は
久しぶりに1人で飲んだ。