温泉旅行 前編
宿に着く前に
駅のロッカーに荷物を預け、
水着で入れる温泉施設に
バスで行く。
「宿に温泉ついてんのに
まだ温泉入んの?」
「水着で入れるから、
プールみたいじゃん!」
「大輝、海とかプールとか
焼けるのダメだから、
室内なら一緒に
泳げるかなって。」
「温泉なのに
泳いでいいのかよ。」
「えっダメなの?」
「いや、知らねぇし。」
水着に着替えて入ってみると、
ちゃんとプールもあった。
「わ!すごい!
赤い温泉!ワイン風呂だって!」
「すごい!すごいよ!
シャボン玉飛んでる!」
ホントに小学生みたいだ。
「ねっプールで泳ご?」
すずめは大輝の腕をとって
ぐいぐい引っ張る。
「わかった、わかったから。
オマエはしゃぎすぎ!
引っ張んなよ。
あぶねえだろ?」
と言った瞬間に、
ツルッとすずめが足を滑らせ、
ガシッと大輝が抱き止める。
「やっぱりな。」
毎回のパターンだ。
「ごめん…」
「とりあえずプールな。」
「うん、潜りたい。」
すずめが通っていたのは
海洋系の専門学校だったので、
ダイビングのライセンスも
その時とったらしい。
大輝は走るのは早いが
肌が弱くてあまり
泳いだことがないので、
どちらかというと
泳ぎは苦手だった。
すずめがパシャンパシャンと
優雅に泳ぐのを
大輝がプールサイドで眺める。
「おい、あの子、すげえな!
自由自在じゃねえか。」
「人魚みてえだな!」
すずめの泳ぐのを見て、
男の団体がボソボソ言っている。
よく考えたら
すずめはゆゆかが選んだらしい
ビキニを着ていた。
「またなんであんなに
露出させてんだ。」
大輝はブツブツ文句を言いながらも
気持ち良さそうに泳ぐすずめを
やっぱり人魚のように
思っていた。
「水を得た魚だな…」
バシャァッ
水飛沫をあげて
すずめが水から出てくる。
「大輝は泳がないの?」
「オレはいいよ。」
「えーっせっかく来たのに。」
「夜まで体力温存しとかねえと。」
思わずついた言葉に
自分でハッとして、
「…って、今のナシ!」
と慌てて否定して
急に顔が赤くなる。
「えっ夜? 夜何かあるの?
…あっ! そっか、そだね。」
「バカ! オマエ、急に
察しよくなるなよ!」
初めてでもないのに
二人は真っ赤になってしまった。
浮かれているのは
すずめだけじゃなかった。