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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第五話「マギクス・トリプレット」

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 結界の中核にあったそれの、浅葱色に発光した外殻は剥がれ落ち、魔法的ガスを吐き出すと魔性の輝きを一挙に失い黒い鉄屑となっていく。 巨大恒星にはあまりにも釣り合わない、小さな中核部が剥き出しとなった。

 「あれが、魔女の本体?」
半ば呆れた風にローデリヒは溜息を漏らした。 黒ずんだ金属質な、雄ライオンの頭を被り、腹にリボルバーに似た回転機構を備えた半人半獣、と言った風貌の魔女の本体は、下手な人形劇のマリオネット染みて、不自然に緊張したポーズのまま恒星の中核付近に浮遊している。 精々身体は人間の子供程の大きさ。 胴体のリボルバーを金属音を小さく鳴らし回転させ、全身を震えさせているが、所作一つ一つからして人工的で角ばっており、滑らかさは無く、そもそもリボルバー部分に弾は一つも装弾されていない。 太陽の魔女は燃え尽きていた。
 明らかに生物の範疇を超えた冒涜的な姿である。 魔女は人々を襲う。 魔女は倒さなければならない存在だ。だが記憶の奥深くに押し込められた、確定的な何かとのシルエットはなぞり絵の様に、ほんの少し重なっていた。 ローデリヒの言葉に至らない声は湿っており、エリゼベータは身体を竦め咽び泣いた。 思えばトーリスは魔法の影響で、思考がやや単純化され過ぎていたのかもしれない。 彼は皆で現実に帰る為に、犠牲者を家族の元に帰す為に、目に若草色の光を宿し、助走を付け、恐らく最も単調で愚直なストレートで、緋の少年は太陽の魔女の首を刎ね飛ばした。
 千切れ飛んだ獅子の頭は原色の赤を辺りに撥ね飛ばし壁の染みとなり、魔女の結界は崩壊した。 結局最後まで、トーリスはこの時抱いた感情の正体に気付く事は無かった。

 人気も無く静寂がただ辺りを支配する廃工業地帯。 戦場と言う極限状態から帰還する、などと言ったふざけた状況でもなければ、中学生達は時折漂う潮の香りに話題を膨らませていたに違いない。 月夜を背に黒曜石染みたシルエットが浮かぶ。 十字架の上に横棒を足したようなシンボルを掲げたグリーフシード。 ローデリヒは丹念に掴み胸元で握り締めた。 エリゼベータは涙を拭いながら、血の気が完全に引き節々の硬化が始まりつつあるバッシュの遺体を、乱れた短髪を軽く整える。 ギルべぇは海の方を向きただ風に触手を靡かせる。 トーリスの親友、フェリクスの姿は、無い。
 三人の反応が薄いと言う事は、無事逃げる事が出来たのか。 張り裂けそうな胸をぐっと掴み、茶髪の少年は死せる先輩魔法少年に精一杯の祈りを捧げた。 この人の家を何とか探して、家族の元に帰してあげて。 家に帰ったら明日にでも連絡しよう。
 「あん?」
銀の妖精はスイッチが入った様にある方を振り向いた。 遠目でも目立つときわランドマーク。 商業地区の方角だ。 ダウジングで何かを探すようにギルべぇは触手を真っ直ぐ伸ばす。 他の生き残り達も揃って目を流す。 十字軍は変身を解き、元の制服姿に戻っていた。 もう手遅れであった。
 液状の赤黒が横切った。 血の様な暗い赤。 流線の赤が緋の光を一瞬、いや一フレーム未満覆い隠す。
 急激に離れていく緋の光。 其れが空の星と大差ない小ささに離れて、十字軍は漸く気付いた。

 「ソウルジェムは!?」
トーリスの持っていた緋のソウルジェムはもう手元に無く、【新手の魔法少年】に奪われていた! 有機的に蠢く液状の赤黒を挑発的に広げた蝙蝠的シルエットの装束。 態とらしく声高に新手は叫ぶ!
 「やらかし過ぎだって。 そのへんにしときなよ!」
返すはローデリヒだ。
 「なんですって!?」
 「こいつは元の持ち主に返すんだからね。 おいらだけじゃない、シマの魔法少年少女みんなの総意サ」
緋のソウルジェムを液状の赤黒で包みながら新手はやや冷えた言葉を紡ぐ。
 「何のことだよ? そのジェムは俺の親友から貰った、」
 「部外者は黙ってて」
新手はトーリスの目前、息のかかる目前に立ち塞がっていた。 全くのノ―モーション、瞬きをしたかしないかのほんの一瞬で! 緋のソウルジェムは独立して数百メートルは離れた地点に保護されている。 再び装束に身を包みローデリヒは武力行使を狙う、だが新手の瞬間的突進! 反応速度が足りずライラックの魔法少年は水平に吹き飛ぶ! 下手な演技で嗤いながら肩をすくめる新手。 暗がりで僅かに白い八重歯が覗く。 瞬時新手の笑顔は歪んだ。 ローデリヒの軌道上には第二の新手! 焦げ茶の癖毛に澄み亘る緑眼と艶めかしい褐色の肌。
 「呼ばれて来たらなんや、けったいな様やんなぁ!」
どこか似非染みた関西弁を吐き捨て、第二の新手は吹き飛んだ筈のローデリヒの身体を受け止めていた!
 「もう少々早く来なさい、アントーニョ!」
 明らかにたじろぐ第一の新手。 彼はアントーニョと呼ばれた少年に意識を注いでいた。
 「な、なんでお前がいるのサ」
 「呼ばれたからゆーたやろ」
息もつかせぬ赤黒の広範囲放出! 蜘蛛の巣状に広がる魔を生存者達は辛うじて回避、トーリスは変身し備える心積もりであった。 しかし!
 「!? 変身できな、」
 「あかん兄ちゃん!」
戦装束を纏う事無くトーリスは被弾! 想像ほどのダメージは無いが染み付く身体の激痛! アントーニョは遺骸の元へ駆け寄り手早く消防士担ぎ!
 「ホトケさん傷拵えたらどないするつもりや! 家族は俺が探したる!」
 「心当たりは!?」
 「ローデリヒ、お前一番詳しいやろ。 追々連絡頼むわ!」
ローデリヒは目配せしアントーニョは魔法少年の武装圏内から脱出! 赤黒の新手は歯をギチギチと鳴らし飛翔、緊迫が解けた頃には姿も見えない遠くへと消えていた。 緋のソウルジェムは第一の新手に奪われ、先輩魔法少年の亡骸は、ローデリヒが信頼出来る相手らしきアントーニョの手に託された。 思索するギルべぇの言葉は無い。 溜息をついて美しく艶の流れる長髪を一払いし、エリザベータはトーリスに向けて告げた。
 「今日は… もう帰りましょう。 フェリクスちゃんは、安全な所へ逃げた様だし。
私達が出来る事はもう無いかも」
 「で、でも」
 「私達は魔法少女、魔法少年としての生活が全てじゃないんですから。 ここに居たのが、町の人にバレちゃったら。 それはすごく良くないし、大変だと思うの」
トーリスに反論の余地は無く、反論の意味も無い。 彼は幾つかの疑問をぐっと飲み込み、ギルべぇ達と共に急ぎここから逃れる事にした。 遠のく潮風に流れ込む廃油の臭い。 彼らの影は泣いていた。