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　『七時になりました、次のニュースです。　量販店の店長に土下座を強制しその様子を撮影、動画投稿サイトにアップロードした三十三歳の男が…』
毎朝二番煎じの下らないニュースをばら撒く報道番組を横目に、トーリスは寝惚け眼を何度か擦った。　昨夜はあまりにも起きた出来事が多過ぎた。　死を何度も目前にし、何事もなく熟睡出来る程中学生の心は強くない。　薄ら寒い芸能ニュースも、今の彼にとっては頭を冷やす、ホワイトノイズ程度の働きは見せていた。
　その朝、昨晩犠牲となった魔法少年の名がニュースに上がる事は無かった。　物憂げな家庭用プリンタの駆動音。　パソコンに詳しい弟がまとめたウェブページのコピーに、一礼してトーリスは目を通す。　魔女の見せたデータ爆弾に現れた物とよく似た、今は無きときわ快速ラインの車両画像。
　数十ページ分の一級ネットニュースのコピーには、利便性向上の為に、近隣の私鉄路線、半世紀ほど前に敷設された、歴史あるときわ私鉄の線路を接続する計画があったが、四年ほど前に凄惨な脱線事故が発生。　百人近い死傷者を出し、地元住人の猛烈な反対から計画は中断に至った、とある。　トーリス自身も生活の上で忘れ去ったそんな過去の事を、見聞きしたように正確に知る人間がそうそう居る筈が無い。　事故の犠牲者。　遺族。　当時のときわ線関係者。　それなら納得できる。　だが、彼にときわ快速ラインの車両を見せたのは魔女だ。　魔女が何故そんな事を知っていた？
　魔女は何故、そのような悲惨な過去の出来事を、人間を襲う手段に転用した―？

　「二人に聞いた方が早いか」
ローデリヒとエリゼベータの二人。魔法の道の先輩。　音沙汰無い、携帯電話のメール受信箱に見て見ぬふりで、少年は通学鞄を肩にかけた。