温泉旅行 後編
楽しい時間はあっという間に過ぎ、
初日に目星をつけておいた
お土産をバタバタ買って、
東京に向かう電車に乗った。
もう旅行が終わってしまう。
明日はすずめは仕事。
大輝は学校だ。
また会いづらい日常に戻る。
旅行が楽しかったぶん、
余計に寂しい気がする。
電車のなかで、
二人はずっと手を繋いでいた。
行きとは違い、
言葉数が自然に少なくなっていた。
大輝が家まで送ってくれた。
「おかえり。」
諭吉が出迎える。
「おじさん!」
「馬村くん、
すずめを送ってくれて
ありがとう。
よかったらコーヒーでも
飲んでいきなよ。」
「え…あ、はい。
ありがとうございます。」
諭吉の意図が見えず
大輝は戸惑ったが、
大輝も諭吉に話があったので
ここは素直に従った。
「あ、コーヒー切れてるわ。
すずめ、カフェから
一袋、とって来てくれないか?」
「えっいいけど…」
カフェの鍵を預り、
すずめは外に出る。
すずめが出ていったのを
見計らって、大輝はすぐに
話し始めた。
「あの…旅行、許してくれて
ありがとうございます。」
「うん、もう二十歳だしね。
馬村くんがすずめを
大事に思ってくれてるのは
わかってるから…」
「でも!」
諭吉の語気が強くなる。
「すずめはもう社会人だけど
まだ馬村くんは学生だから
くれぐれも学生結婚とか
そういうのはナシで頼むよ?」
「は/// まぁ、はい。
それはちゃんとします。」
「すずめの母ちゃん…」
「え?」
「すずめの母ちゃん、
怒ったら超怖いんだよ。」
「は?」
諭吉はさめざめと
泣きそうになりながら言う。
「もしすずめが世間に顔向けできない
ようなことになったら、
オレが姉さんに怒られるんだよ。
だから頼むよ。
それだけはちゃんとして?」
「え…そういうこと?」
「そういうって…
それは姉さんの怖さを
知らないから言えるんだぁぁ」
あのときはこんなことされた、
あのときはこうで、
と、諭吉が小さいころから受けた
すずめの母の暴動の数々を
大輝は延々聞かされた。
そしてまた大輝は
話を切り出す。
「あのオレ…こんなこと
ホントはすずめの両親に
言うべきなんでしょうけど…」
「卒業して就職したら、すずめを
貰いたいと思っています。」
「馬村くん…」
「まだ学生で、若いと思われてるのは
わかってるんですけど、
オレのこの先、すずめがいないのは
考えられなくて。」
「旅行に行って余計思いました。」
大輝が真剣に話すのを、
諭吉も真剣に聞いていた。