甘くない恋の味
休み明けの忍術学園の忍たま長屋の放課後。
団蔵はクラスメイトを何人か連れて廊下で立ち話をしていた。
「休みの次の日の授業って全然頭に入ってこないよねー。
「兵太夫、土井先生の授業はずっとあくびしてたもんね。
「三治郎だって実技の時、ぽけ~っと上の空で山田先生に怒られてたよな。
「だって昨日、うちに帰って父ちゃんと修行して疲れちゃって~。
「三治郎んちは山伏だもんねー。団蔵も実家に帰ってたんでしょ?
今日の授業の話から、休日どう過ごしたかという話題になった。
「うん。父ちゃんの馬借の仕事の手伝い。
「お仕事大変だった?
「昨日は街に配達だったから楽な方だったね。
「へえ。
「あ、それでさ!帰りに団子屋に寄ったんだけど。
「何?何かおもしろいことあったの?
「その団子屋に、かわいい女の子がいて……。
一方、忍たま長屋に向かう忍たまが二人。
「そういえばさ。最近庄左ヱ門、不破先輩か鉢屋先輩のどっちかと裏山に行くとこ見かけるけど。
「ああ。あれは鉢屋先輩と変装術の練習をしに行っているんだ。
「すごーい!鉢屋先輩から変装術教えてもらってるの!?
「まだ基本的なことしか教わってないけど…。
「さすが庄左ヱ門だなー。あの鉢屋先輩に後継者として認められてるんだー。
「伊助、後継者なんて大袈裟だよ~。
「もしかして、昨日の休みに先輩と出かけたのもそれで?
「まあね。それはちょっと難しかったけど。
「それで、どんな練習だったの?
庄左ヱ門が口を開こうとした時、伊助が廊下にいたクラスメイトを見つけてその輪に入ろうとしていた。
「…それで、団子もおいしかったんだ!
「へ~。街の近くにそんなお団子屋さんがあったなんて知らなかったよ。
「それよりも、団蔵。
「何?兵太夫。
団蔵から団子屋の話を聞き終えた兵太夫が、肘で小突きながら言った。
「その団子屋さんの女の子のこと、ずいぶん楽しそうに話してたけど~?
「え…?
「あっ、もしかして団蔵~。
三治郎も反対側から団蔵を小突く。
「その子を好きになっちゃったんでしょ?
「……っ!
団蔵は耳まで赤くなった。
「ま、まあね……。
答えた途端に、兵太夫と三治郎の二人から背中を強く叩かれた。
勢いよく廊下から庭に落下した。
「いいな~団蔵。ぼくもそのかわゆい女の子と会ってみたいな~。
「ねー、今度の休みにぼく達もその団子屋さんに行っていい?
「え、え…。
「抜け駆けは駄目。
「団蔵だけじゃずるいよね。
団蔵は困り果てた。
兵太夫達には女の子の容姿については話していない。
その子が庄左ヱ門に似ていることを知らない。
しかし団子屋に行って、女の子が、団蔵が好きになった子が庄左ヱ門に似ていると知れたら、
『あの子をかわいいっていうことは…団蔵、庄左ヱ門もかわいいって思ってるってこと!?
『団蔵って庄ちゃんをそういう目で見てたのー!?
(違う!おれも庄左ヱ門も男だし、そんなこと思ってないよ…!
団蔵は、勿論庄左ヱ門のことは友達として大好きだ。
だが女の子相手の『好き』とは全然違う。
違うはずなのに…
(なんで…なんでこんなにおれ、ドキドキしてるんだよ…!
「何なに?みんな何で盛り上がってるの?
思い悩んでいる間に、伊助が三人の輪の中に入ってきた。
伊助がいる、ということは…
彼と仲の良い同室も。
「伊助ー、庄左ヱ門、やっほー。
「やっほー。何の話ー?
「団蔵に好きな子ができた話ー。
「ちょっと…兵太夫!
「……。
ちらりと目線だけ庄左ヱ門に向けると、
彼はいつものように落ち着いた表情だった。
団蔵を置いて、伊助達は話を続ける。
「それはおもしろそうだね!でもさ、ぼく達もおもしろい話してたんだよ。
「そうなの?伊助、聞かせてー。
「でも先に団蔵の話が聞きたいなー。ね、庄左ヱ門?
伊助に振られ、その場にいた全員が庄左ヱ門に注目する。
庄左ヱ門は、庭にいる団蔵に目を向ける。
二人の視線が重なる。
その庄左ヱ門の表情が、別の人と重なった団蔵は…
「…っ、ごめん!急に用事思い出した!その話はまた今度な!!
「あ…。
「おい、団蔵ー!
「逃げるのー?!
胸が高鳴りすぎて、いてもたってもいられずその場から走り去った。
「………。
「庄左ヱ門、団蔵どうしたんだろうね?
「…、伊助。ぼくも委員会の会議があるの忘れてた。
「え?
「悪いけどさっきの話、また部屋でしよう。
「そう。じゃあね、庄左ヱ門。