魔法少年とーりす☆マギカ 第六話
真夏のコンクリートジャングルの只中、蝉が喧しく泣き喚く、ときわ中昇降口。 最早戦友となった少女の元に、茶髪セミロングの少年は駆け寄った。 酷暑の日差しは容赦なく子供達の体力を奪う。 揃って二人は下駄箱へ足を運んだ。
「似た奴が魔術部に?」
「ええ、八重歯に赤い目の部員。 先週の魔法少年に良く似てます」
トーリスの足取りは重い。 先週の事件と、再び親友が姿を消してしまったショックからは完全に立ち直っていなかったが、エリゼベータからの連絡を受けこの日の登校を決めた。 【魔法少年の生活は魔女との戦いが全てではない】。 彼女の教えはほんの少し、だが確実に普通の少年であったトーリスの背中を後押ししたのだろう。 赤黒の魔法少年は緋のソウルジェムを持ち主に返すと言っていた。 あのジェムは他でもないフェリクスから貰ったものだ。 魔術部の連中は今の持ち主が俺だとは知らない筈。 まさか先々週の件も、其れを知らずにあいつらが勘違いして―、
「…赤い目の部員、イオン・エミネスク… って名前なんですが、その、私」
「相当、こじれてたっけ」
「…はい。 トーリスさんは今変身できない。 少なくとも、あいつは魔法少年です。 多分他の部員達も… 警戒されて変に勘ぐられたら、私一人じゃトーリスさんを守りながら太刀打ちは出来ません」
尤もである。 だが相手は自分達と同じ中学生、所在を知らない相手を指し【持ち主に返す】などとは、出任せだったとしてもその場の思い付きではそうそう思い付かない筈だ。 ソウルジェムを奪った魔術部員達はフェリクスの行方に心当たりがあるのだろうか? あるかどうかは会ってみないと解らない。 思考を重ねた後答えた。
「俺一人で行く」
「でも、トーリスさん」
「会って見ないと解らないだろ? 魔術部が何をしようとしてるか、あのジェムを盗んで何がしたいのか。 校内には先生も俺達以外の生徒もいる。 此処は公共の場なんだ。 人前で他人を魔法で襲うなんて、そう簡単には出来ないよ」
魔術部員達が彼に手出ししないなどと言う確証は無い。 しかし何かが起きた後で結論が出ても手遅れなのだ。 親友に何かがあったら俺は、もう。
トーリスはスマートフォンの画面を操作し、仮想敵の喉元へ飛び込む決意を明らかにした。
「何かあったら押す」
エリゼベータの携帯電話アドレスが大きく映った携帯画面。 通話ボタンにギリギリ指が触れぬよう、彼はスラックスのポケットにスマートフォンごと手を入れ、もう片方にはそれらしい大きさに畳んだハンカチとポケットティッシュを入れて見せる。 真剣な面持ちで無言の同意の後、エリゼベータは隣の図書室の扉を開けた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第六話 作家名:靴ベラジカ