魔法少年とーりす☆マギカ 第七話
黄ばんだ照明がずらりと並ぶ、夜のときわハイツ連絡通路。 夕食時を過ぎたこの時間帯にはもう通行人は殆どおらず、俯き、人目も憚らず啜り泣く男子中学生を咎め、声をかける者はいない。
トーリスは何があったかを友人に話せる筈もなく、ただ一人死にも等しい苦しみを胸の内にひた隠し耐え続けていた。 ローデリヒ達に見せる顔が無い。 家族やフェリクスの両親にはどう説明すればいい? 妖精と契約を交わし、魔法少年になった揚句に身体を無くして、本体は卵型の宝石になった。 だなんて言えるわけが無い。 それとも、自分が契約すれば、妖精に願いを叶えて貰えば。 親友の肉体は元通りになるのか?
トモダチを救えるならば、魔法少年になって、一生魔女と戦い続ける事になっても構わない、妖精は今どこに、
トーリスの進行方向。 彼の自宅側に、其れは突如現れた。 銀髪の頭。 耳の穴から房を伸ばした様な奇怪な白い猫耳。 ボリュームの多い巨大な純白の尻尾を燻らせ、ギルべぇは神妙な面持ちでトーリスを見た。
「…お前が呼んだのかよ」
苦虫を噛み潰した苦痛の面。 親友が嘗て妖精と呼んだ存在にトーリスは問うた。
「フェリクスを、魔法少年にしたのは、お前なのか」
「そうだ」
あまりに簡潔な答え。 トーリスは掴みかかった。 続けて問い質す。
「なんで、なんで魔法少年にしたんだよ! 願い一つを叶える対価が、魔女になるかも知れない、死ぬかも知れない、魔法少年にさせられる事なんて…、そんなふざけた契約があるかよ!? お前があいつと契約しなきゃこんな事にはならなかったかも知れないんだぞ!?」
「あいつは全部承知の上だった」
胸の苦しみが薪となり、怒り、憎悪の炎を燃やしていく。 少年の拳は堅く握られていく。
「ふざけるな、何が承知の上だ、何が妖精だ、何が魔法少年だ、こんなのあるかよ」
「ふざける訳あるか! 俺様は何時だって真剣だ、フェリクスの願いは確かに叶えた、あいつは魔法少年になる前から、前の十字軍に居た時から一つ一つ、魔女と魔法少年とソウルジェムと… 何もかも全部知ってたし、俺はやめろやめろって口酸っぱく言って来たのによ! 事情も知らずに勝手な口挟むんじゃねえ!」
ギルべぇの腹に強烈な一撃が入った。 トーリスの所作は、手は、これまでにない程に、憎悪に満ちていた。
「…そうか。 俺にも事情があるんだよ。 俺はただの人間なんだろ? まだ魔法少年じゃないんだろ? だったら俺と契約しろ。 願いを叶えて、魔法少年になって、本当の意味でフェリクス達と一緒に戦って― また、皆と楽しく暮らすんだ」
怯んでいたギルべぇの顔が無感情に固まった。 妖精は身悶えながら猫耳を押さえ付けるが、触手はトーリスの胸元に伸びていく。
「契約する気、あんのかよ、やめろ」
抵抗を続ける妖精。 だが触手は狙い澄ます様にトーリスの胸倉へ伸びる。 トーリスは荒げた息を如何にか抑えながら、震えるギルべぇの元に歩み寄った。
「そうだ、お前となんか癪だけど、契約する。 魔法少年の全てを受け入れる。 だからフェリクスの身体を元通りにしろ。 俺はギルべぇ、お前と」
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第七話 作家名:靴ベラジカ