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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第七話

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 潮風の微かに香るときわ町の早朝。 窓辺で琥珀のソウルジェムは夏の日差しを受け、鼈甲色の粒を部屋の中に散らしていく。 柔らかいアースカラーで纏められ、要所にのみ施されたフリルが品よく程々に主張する小さな一室。 使い込まれた勉強机と反対側に位置するベッドの上に、エリゼベータは俯き腰掛けている。 壁掛け時計の針は六時半を指さんと一定のテンポを刻み、小さな駆動音を部屋に残していく。 朝食にはまだ早い。
 魔法少女達のみで片を付けるべき事件に、何も関係の無かったトーリスを巻き込んでしまった。 ここ最近、目覚めた彼女がまず頭に巡らせる思考はその事についてばかりだ。 思索と言うほど筋道を立てて考える訳でもない。 あの時こうしていれば、この時はあんな事をしていなければ。 完成形もなくただ無策に粘土をこねる様な、小さな仮定を芋づる式で幾つも続けるのみである。
 十字軍が今の形となる前、彼女が今よりも内気で、新米の魔法少女であった頃から始めた、いかなる魔女にも臆せず弱点を導き出す、発想力のトレーニング。
 そして、彼女自身の感情的な性分がどうしても生み出してしまう、急激な感情の浮き沈みで、ジェムが濁りを孕まぬよう。 定期的に状況を整理し、心を落ち着かせる自衛でもある。

 二週間前、フェリクスが魔女に喰われたあの日。 彼を死んだものと思い、親友だったトーリスの家へ、遺されたソウルジェムを送り届けたのは間違いだったのだろうか。 トーリスにフェリクスの魂を、ソウルジェムを届けさえしなければ。 彼は自分達魔法少女の事を知ることもなく、普通の中学生として生活出来ていたかも知れない。 …いや、フェリクスの魔法が無ければ、彼は真っ白な魔女に喰われ命を散らしていただろう。
 何れにせよ、フェリクスのジェムを届けた結果、トーリスを魔女の餌になる運命から救い出せた事には、誤りなど無かった筈だ。 一人の同級生を助けられたのだから。 なら間違ったのはいつだろう。 歯車が狂いだしたのはいつ? 私が魔法少年十字軍に迎え入れられたあの頃? 魔法少女になったあの日?
 それとも、もっと前、もっと過去の、十字軍を結成した、三人の魔法少年達が出会った、あの時?
 気付けば触れていた、悲痛よりも、後悔と郷愁が強く残る、虫食いだらけで黄ばみ掛けた過去の一ページ。 彼女は脳内のページをそっと捲っていく。