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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第七話

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 「ヴェ… 俺は、フェリシアーノ。 フェリシアーノ・ヴァルガスだよ。 よろしくね、エリゼ」
 左右に流した短い茶髪から伸びる、本人から見て左に飛び出た、毛先のくるりと回った奇妙な癖毛。 普段は糸目だが、目を開けば済み切った茶色の瞳をくりくりさせる、陽気で人懐っこい臆病者。 そんな彼との出会いは小学校の頃まで遡る。
 やや知恵遅れ気味であったフェリシアーノは身体の成長も大分遅かった。 長らくエリゼベータは彼を年下だと思っていたが、フェリシアーノ以外の交流が増えていき、まともに会う機会も減り、彼との出会いが記憶の彼方に消えかけた頃。 彼女が五年生になる日を目前に、フェリシアーノは卒業証書を手に、ときわ小学校を去って行った。

 とある日の下校中。 久しぶりに再会し、中学生になったフェリシアーノはエリゼベータの背丈を既に超え、何処か抜けた知性も外見もすっかり年相応に育っていた。 ファミリーレストランで、カフェオレ片手にチープなボロネーズを口に運びつつ、無意味に身体を揺らしながら、折り畳み式携帯の待受け画面に映る友人を見せてきたり。 驚くほどに技術とセンスが磨かれたイラストを、目の前で手早く描いて見せたり。
 唐突に、彼女が全く知らない人物の名前を口にしたり、知識等まるで無い、サッカー中継の話題を出したりと、時々付いていけない事もあったが、幼馴染が幸せそうに暮らしている事は素直に嬉しかった。
 「ヴェ、それで、それでね? 俺、ルッツ達と三人でチームを作ったんだー」
 彼は鞄からノートを取り出してエリゼベータに見せた。みっしりとラフ画が備忘録染みて描かれたノートのページ。 その中から、一ページを丸々使って描かれている、十字架をあしらったロゴの一カット。 フェリシアーノはそれを指差し柔らかく説いていく。 当時は理解出来なかった単語の数々。 その多くの記録は既に痛み、解読不能になっている。 彼の傍には、真珠の様な光沢を放つ卵型の宝石があった。
 「…でね、ときわ町を、皆の町を、魔女達から取り戻すんだ。 魔女から皆を守る為のチームなんだよ。 だから昔、キリスト教の聖地を取り戻そうと集まった子供達の名前から取って、【魔法少年十字軍】」
 これが、最初の魔法少年十字軍の成り立ち。

 魔法少年十字軍は結成以前から、そして結成後もずっと、魔女と使い魔を手当たり次第退治し続けた。 まだメンバーではなかったエリゼベータは、実際に聖戦を目にする事は無かったが、現実世界に戻った彼らと共に、楽しくお茶をしたり、遊びに出掛けたりはしていた。
 勝手に彼女が友人のフェリクス達を誘っても、フェリシアーノ達三人は無下にするどころか、むしろ快く遊び仲間に引き受けてくれた。 魔法少女となった今思い返せば、あれもソウルジェムを穢れさせない為のリフレッシュ、彼らなりの、自衛の一環だったのだろうか。 どうであれ、彼らの本意を知る手立ては既に無い。

 エリゼベータ中学一年生。 去年の夏休みの始め。 ローデリヒはいつの間にか十字軍の一員として数えられ、魔法少年でなかったフェリクスも、前線で戦う事は無くとも。 メンバー達の心の支えとして、確かにチーム内での地位を築きつつあった。 ローデリヒを通じて、新たに十字軍の壮行会に付き合い始めた少年もいた。
 その日の帰り、潮風が涼しく優しく吹き付ける夏の夜。 馴染みのファミリーレストラン近く、築数十年の古びたアパートで火事があった。 胸騒ぎがした。 嫌な予感。
 「反応があります! 近くに、魔女の反応が」
 桜色の卵型を持ったメンバーが叫んだ。 いつもの魔女騒ぎか。 当時の彼女にはその程度の認識であった。
 「皆は先に帰ってて。 俺達、ちょっと行って来るね!」
 三人の精鋭兵は真珠、桜色、黄金の軌跡を残し飛び去った。 去り際、フェリシアーノは何かを言いかけた。
 「…エリゼ。 俺達はね。 魔法少年っていうのは―」

 これを最後に。 フェリシアーノ達三人は、二度とエリゼベータの前に姿を現す事は無かった。

 「―十字軍は、【第一次魔法少年十字軍】は。 解散しました」
 ローデリヒは既に魔法少年となっていた。
 「代わりに、私がリーダーとして。 新たな魔法少年十字軍を立ち上げます」
 彼女に無様な様を見せないよう、隠れてフェリクスは泣いていた。 中指にはソウルジェムが輝いていた。
 「もう二度と、あのような事態は起こさない。 そう、誓います」
 違う。 私が知りたいのはそんな事じゃない。 何があったの。 何故十字軍は解散してしまったの?
 「魔法少年になって間もない私達の実力では… 恥ずかしながら、現状では【第一次】の様な戦果は期待出来ません。 暫くの間、魔女退治に慣れるまで教育係を雇う事にしました。 つては有ります、報酬金は私が…」
 これが、【第一次】魔法少年十字軍の幕引き。 そして、【現在の】魔法少年十字軍の始まり。

 「このままじゃいけないの。 私の知る魔法少年十字軍は… 名前だけ似せた別物に変わってしまった」
 朝焼けに染まる海辺の公園。 白い猫耳から伸びる触手。 銀髪の妖精は真摯に問う。
 「お前も例外じゃないんだぞ。 一生魔女と戦い続ける羽目になっちまう。 ソウルジェムが穢れていけば、何れ魔女になって死んじまう」
 「覚悟の上よ」
 エリゼベータは大きく深呼吸し、続けた。
 「私が契約するのは、十字軍の二人。 ローデリヒさんとフェリクスちゃんの負担を少しでも減らす為。 前の十字軍は、フェリシアーノちゃん達は、楽しい事も、苦しい事も、皆で分かち合ってたわ。
 私はその事を忘れない。 元の十字軍がして来た事、皆を幸せにしたいって思い、無駄にしたくないの」
 「―私は、【皆と苦楽を分かち合いたい】。 だから一生のお願い。
 私の願いを叶えて、ギルべぇ!」
 ギルべぇの触手は彼女の胸元に伸び、もがく少女の胸元からは… 琥珀色に輝く卵型の光が産まれた。
 「お前の祈りは、エントロピーを凌駕した。 さあ、力を使え。 祈りの魔法を解き放ってみろ。 ヘーデルヴァーリ・エリゼベータ」
 そしてエリゼベータは、魔法少女となった。

 「…もう、聞いてるのエリゼ? 朝ご飯冷めちゃうわよ!」
 はっと目を見開いた。 母の声だ。 時間は… 八時半。 彼女にとっては大寝坊。 回想の歯車はあと寸前、もう少しと言う所で止まってしまった。 でも、あまり待たせたら心配させてしまうかも。 僅かな心残りをぐっと飲み込み、エリゼベータは乱れた寝巻と髪を軽く整え、焼いた卵が仄かに匂うダイニングに向かった。