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　「…何だ、お前も中々、すばしっこいじゃねえの。　俺様には負けるけどよ。　ケセ」
　息を切らしながらギルべぇは部室への扉を閉じる。　円卓の中央にはフェリクスのソウルジェム…　トーリスの親友の魂が、標本瓶の中で今も眠りに付いている。　忙しないタイピング音と筆記音を飛ばしながら部員達は資料をあっちこっちと手渡しており、明らかにこれまでで最も深刻な事態である事は見てとれた。
　「フェリクスの件は聞いただろ」
　切らした息を整えながら、イオンにトーリスは唾を呑み頷いた。
　「まずい事態ってのは、あいつの力を悪用してる奴が居るってことサ。　それもお前のすぐ傍に」
　「！」
　マギクスワナビは口角を真一文字に広げた。　すぐ傍に悪い奴が？　部屋を見回す。　ハルドルは相変わらず良く解らないＶＤＴ作業を続けており、アーサーは口角を歪ませ、短く息を吐いた。　イオンは肩を竦める。　ギルべぇは荒れた息遣いを大分整え、意味もなく左手親指と中指を擦り合わせていた。
　「気になって、件のよりだいぶ後…　急いで設置したカメラからデータを引っ張って来たんだけど」
　促された方を向く。　巨大コンピューターに繋がった液晶モニター。　ハルドルはコマンドを打ち動画ファイルの一つを再生した。　撮影時間は二日前の夜。　さほど高くないビルの屋上。　映像はときわ中セーラーの見覚えのある茶髪と、ビルの敷地裏と思われるコンクリ床を俯瞰の構図で同時に収めている。　中学生は不安定な手摺に座り込んでスマートフォンに耳を傾け、敷地裏の方を見下ろしているようだった。　再生側での処理と思わしきズームイン。　地上の敷地裏を中心に、中指の銀の指輪がチラついた。　幾度となく目にしたライラックの光。　ＬＥＤ電灯の如く光量で輝くライラックの奥。
　ガラの悪そうな男達が、血飛沫を上げながら虚空へ消滅していき、中学生も飛び降りながら虚空へ呑まれていった。　ライラックに包まれ、見覚えのある、裾の長い服を纏いながら。
　「ローデリヒ…」
　こんな事をする筈が無いと信じていた友人の名を零し、トーリスは口元を覆った。　イオンは円卓上に鎮座する、飴色小箱の中の量産グリーフシードを横目に言う。
　「こいつが使い魔にわざと人間を喰わせ、コピー魔女を量産してたんだ」
　「なんで、ローデリヒがそんな事」
　「グリーフシードの安定供給、だろうな」
　その場にいた者達はアーサーに首を向けた。　彼は窓の傍に佇み紅茶を嗜んでいた。　夏の強い日差しが逆光となり、窓辺の少年の心境と表情を黒く塗り潰している。
　「トーリス。　お前の知る【魔法少年十字軍】には、前身のチームがあったのを知ってるか」
　首を振る。　魔術部員達はアーサーから視線を外さない。　草色の魔法少年は筆記を止め、太い眉を摘み。
　部外者へ向けたような回想を掻い摘んで淡々と口にする。