魔法少年とーりす☆マギカ 第八話
「一般人を魔女から守る。 元は三人の魔法少年が、下らねぇほど単純な目的の為に作ったチームでよ。 辛い魔女、使い魔退治が終われば、魔法を使えない奴らも集めて一緒にただ只管遊ぶ。 本当にしょうもねえが、魔法少年の生活と、普通の人間の生活なんて二足の草鞋を、上手いとこ両立していた」
紅茶のおかわりを注ぎ、アーサーは使い込んだ雑巾をイオンに軽く投げ渡す。 赤眼の少年は零した紅茶を拭き取り、這い蹲る様に汚れたフローリングを清めながら問いを投げ返した。 彼は味わい深くニスが変色した、品の良い飴色のデスクを手早く漁り、使用感のあるプラスチックのフォルダーを開いてトーリスに渡した。
「今はなくなっちゃったんだろ。 当時の【魔法少年十字軍】は」
ファイリングされていたのは、ときわ町のローカルな古新聞の切り抜き記事。 発行日は一年以上も前だ。
実の父親が、当時中学一年と二年生の、次女と長男にナイフで重症を負わせた後、目の前で事件現場となった古アパートを放火した。 次女と長男は九死に一生を得たが、長女は現場の部屋の窓に付着した血液を残し、彼女の身元は解らぬまま行方不明となった… という悲惨な児童虐待・放火事件の顛末が書かれていた。 他にも同時期の未解決殺人事件、行方不明事件の切り抜きが何十枚と保存されている。
「これ… クラスでも話題になってた。 酷い奴はこの長女の人が父親を誘った、下の兄妹達を見捨てて逃げたんだ、とか言って」
「この事件には裏があった」
無情な程に冷徹に、草色の魔法少年は紅茶を飲み続ける。 僅かに黄ばみ淡々とした論調で記述された、頭の隅に追い遣られていた、惨い事件のフィードバックに嫌悪感を持ち、無意識にトーリスは口元を弄った。
「妹と弟が、当然犯人のオヤジも一般人だったんで消去法に過ぎないが… その疑惑の長女は魔法少女だったらしい。 部屋の窓からボロボロの体で飛び降り、そのまま魔女化した。 悲劇のレディの魔女は当時のメンバーに倒されたが、一人が身体の修復に魔法力が追っ付かなくなって魔女化、残されたメンバーの内一人…」
アーサーは唇を軽く食み、残りを一気に飲み干す。
「俺の親友の菊も、仲間が死んだショックで魔女化して…、 命を、落とした」
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第八話 作家名:靴ベラジカ