魔法少年とーりす☆マギカ 第八話
「前しりグリーフシードが濁ってら(前よりグリーフシードが濁ってる)」
目の周りに隈を拵え、コマンド入力を続けていたハルドルは渋い目で報告した。
「ローデリヒはグリーフシードを養殖してるんだぞ、ジェムが濁ってたら気軽に浄化するだろ」
「探知器のはじぐ数値が全部あがてらんだぞ(探知器のはじく数値が全部上がってるんだぞ)。 設置した物がもれのぐ、全部(設置した物がもれなく、全部)」
タワー型デスクトップに繋がった巨大プリンタが、図式化された調査結果を純白に書き連ねていく。 駆動音と共に吐き出される数十枚。 アルファベットが一文字と【グリーフシード汚染度探知測定器「ホワイトハット」解析結果】と上部に記述された、三週間前、二週間前、一週間前、そして昨日の項目で表記された棒グラフ。
設置されていたらしい場所によって微妙な数値のブレは有れど、どの機体のグラフも、棒は右肩上がりで伸び、数値が加速度的に上昇している事は素人のトーリスにも見てとれる。 不良じみて首を鳴らしアーサーは訊ねた。
「三週間以上前、…俺達が見つけた、フェリクスがジェムからグリーフシードを吐き出す映像より前、過去の映像に似たものは?」
「全機体似た様のものが撮きやれてた(全機体似た様なものが撮られてた)」
人さし指で虚空を掻き混ぜハルドルは応える。
「俺はんどがコピー魔女ど出遭った、量産グリーフシードが見つがた地点、全部での(俺達がコピー魔女と出遭った、量産グリーフシードが見つかった地点、全部でな)」
印刷された資料を捲り、舐める様に何度も何度も読み解き、イオンは円卓に押し当て紙を揃える。
資料のノック音が、ジャッジ・ガベルにも似た重たい反響を部室に落とした。
「じゃあ、なにサ? 最初っから魔女に出くわす様に、穢れたグリーフシードを置いて、フェリクスのジェムを狙って濁らせて、グリーフシードを産ませて、 卵を産む親がいなければ、子供の魔女を養殖して― そんな、そんな手間を取ってまでグリーフシードをボンボン作ってたって事? 十字軍仲間の命惜しさに? こんな、こんなの、こんなのってないでしょ! 死ななきゃ何してもいいって訳ないよ!」
イオンは円卓に資料を叩き付けた。 一同が一様に彼を見る。 少年ははっとした。
「ごめん、つい」
「動機は?」
落ち着いた息遣いを取り戻し、くずおれそうだった身体を起こしながら不意にトーリスは問う。
「ローデリヒのやってる事は許せない、でもグリーフシードが欲しい気持ちは解る。 ジェムを綺麗にしないと、魔女になって死ぬんだからさ。 でもさ、穢れが一杯溜ってるグリーフシードを、わざわざ放置しておくのはなんでだ? あいつに何の得が? そもそも皆、穢れ切ったグリーフシードは普段どうしてるんだよ」
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第八話 作家名:靴ベラジカ