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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第九話「ウラル・オパール」

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 上半身だけが遺されたフェリシアーノと、涙を流し詫び続けた菊。
旧友達の魔女化する光景。 戦友達の最期が焼き付いた網膜を、瞼を強引に開き、記憶をニューロンの果てに仕舞い込み、厳しい面持ちでルートヴィッヒは答えた。
 「…魔女討伐に協力は出来ない」
 黄金色の不安定な煌めきを見せる、全身厳ついルートヴィッヒの右中指に収まるソウルジェム。 爪には円を3つ山状に並べた様な金のシンボルが浮かぶ。 チープなハンバーガーショップのテーブル席、魔法少年と少年達は町の危機について捲し立てていた。 魔女のパンデミックが起こればどれだけの行方不明者が、どれだけの死者が出るか判らないと言うのに。 トーリスの顔には物事が上手く運ばぬ焦燥と不快感が浮き出ていた。
 「ならときわ町から早く逃げな。 何時パンデミックが起こるか判らない。 暫く花を捧げに来るのも我慢しておいた方が良いよ」
 寒気を感じるほどに冷房が利いた店内。 元々期待して居なかったのか、バニラシェイクを啜りながらイオンは冷徹に告げる。 悪戯っぽく少々悪魔的な微笑みを浮かべて。
 「最も、お前の取り分はゼロになるけどね」
 「安心しろ、何年もすれば日常生活では早々濁らん。 魔女退治も、あれ以来殆どしていない」
 「で、でも」
 トーリスは身を乗り出して声を荒げた。 彼ら三人の他に客はおらず、店員は無関心に仕事を続けている。 それでも彼は羞恥を感じ、抑えて座り直しながら説いた。
 「一体倒すだけで大変なのに、数十体の魔女退治なんて。 魔法少年達が何人いても、絶対足りないんだ。 ほっといたら何十人、何百人が死んじゃうんだ。 辛いのは解るけど、頼むから協力」
 「俺は引退した。 もう十字軍の一員でも何物でもない、ただの一般人だ」
 高校生らしからぬ、ルートヴィッヒのバリトンボイスが遮った。 黄金の魔法少年は一考し、長い手袋をめくって見せる。
 「済まないが、俺はもう疲れた。 魔法【少年】などと呼ぶのも厳しくなりつつある年だ」
青年の左腕の… 生身はもう残っていなかった。 医療用義手に置き換えられた腕。 電子的に接続されているのか、ロボットの様な左手は握って開くを繰り返し緩慢に動きを見せる。 トーリスは声が出せなかった。
 「こいつもまだまだひ弱でな、微妙な力加減が利かない。 どちらにせよ、以前の様に戦う事はもう出来ん」
 少年はもう何も言えなかった。 友人を一度に二人も失った悲しみを、ただの一介の男子中学生が推し測る事は、到底出来なかった。 二十歳に届かない若い男の其れとは思えない、希望の無い暗い趣。 重く苦痛に満ちた、ルートヴィッヒの半生の足取りが、ほんの少しだけ窺えた気がした。
 「せめてこれからは、普通の人間として… 静かな一生を送らせる、自由をくれ」
 「…そうかい」
 呑み切ったシェイクのカップとトレーを片付け、イオンは席を立ちトーリスに促した。 トーリスも席を立ち、敗残兵の先輩に一礼した。
 「じゃあね、御達者で」
 「ああ」
 ルートヴィッヒの重い一礼を背に、中学生達は店を後にした。 自動ドアが開く。 厭に静かなときわ町屋外。
 「もう仕方ない」
 「ギリギリまでグリーフシードを探して… おいら達だけで、魔女と戦おう」
 トーリスが見た、死地に赴く赤眼の少年の背は、単純で悲壮に満ちていた。