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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第九話「ウラル・オパール」

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 真新しいが風雨に汚れたタイル床。 中の蛍光緑がぶち撒けられ、重く転がるガラスの標本瓶。 グリーフシードが数個散乱する中で眩しく煌めく、緋色のソウルジェム。 得体の知れぬ液体を口から吐き出しながら、緋の魔法少年。 フェリクス・ウカシェヴィチは肉体の再構築を終えた。 ジェム汚濁と浄化のデスパレードに耐え切れず、大分前に身元も解らず惰性的にソウルジェム内部に保護していた、若い女性の死体が遅れて現世に戻っていく。 死後硬直も無く、生前の瑞々しさが残ったままの、露出した身体。 遺体の豊満な胸を彼女の腕で覆い隠し、フェリクスは目を逸らした。
 真昼の夏の日差しは、久しく動かす事の出来なかった新鮮な肉体に突き刺さるかのように尖っている。 それにしても肌寒い。 ときわ中夏服セーラーの上から、冬の様に冷たい風が容赦なく吹き付ける。 周囲には、全方位豆粒のように小さく遠い町が広がっている。 ドーナツ状の外輪から下を見下ろすと、いつも嫌々通っていたときわ中学校の新校舎も遥か下に見えた。 この高さでときわ中がすぐ傍に見える建造物など一つしかない… ここは、ときわランドマーク? 小奇麗な外壁もなく、高さ200メートル超、剥き出しの展望台屋根の上にフェリクスはいた。 管理者用出入り扉側に、縦2メートルも無い煙突様のバッグが三つ鎮座している。 ファスナーの開封音。 ワンレンストレートの金髪は音の方へ目を向けた。
 「友達が持ってきてくれたんだー。 うふふ」
 不釣り合いなほどに、か細く高い男声を放つ、大柄なときわ中冬服セーラー姿の少年。 中指にはムーンストーンに似た乳白色を帯びた、半透明のソウルジェム。 魔法少年か。 大きな縦長のバッグから紫眼の少年は大荷物を引き摺り出す。 いや― 違う。 荷物ではない。 荷物であった方がましだった。
 「お前… なんで、こいつを」
 大柄な少年はフードを鷲掴み乱雑に投げ捨てる。 勢いでフードは脱げ、着用者の短い金髪が溢れ出た。 フェリクスはその人物を知っていた。 一週間前に魔女化し命を落とした、凄腕魔法少年だった者。 生命活動を停止したバッシュ・ツヴィンクリ。 淡い金髪のソプラニスタは二つ目の鞄のファスナーを下ろし、浅葱の魔法少年よりも縦の短い荷物を引き摺り出した。 緋の魔法少年は顔を覆い悲鳴を上げた。
 「フェリシアーノ…っ!」
 彼の目の前で下半身を喰われ魔女化した、第一次魔法少年十字軍のメンバー。 魔女に喰われるまでフェリクスが親交を深めていた、高校生魔法少年のフェリシアーノ・ヴァルガスは短い茶髪を掴まれ、不出来な人形を見る目で、ソプラニスタに人相を確かめられた後、子供が玩具を片付けた振りをした時の様に軽く投げられた。
 魔女化したフェリシアーノと戦い、自身も魔女化した魔法少年。 密かにフェリクスが尊敬していた本田菊も縦長のバッグから強引に引きずり出され、黒髪ショートをさっと撫でられた後同じ様に転がされた。 そこには恐怖に震えた表情が張り付いた、彼がかつて敬愛した魔法少年の、あまりにも無残な姿が晒されていた。
 「お前… なんで傭兵を、キクセンパイを、フェリシアーノを」
 「お姉ちゃん!」
 大柄の少年は無視しフェリクスを易々と払い除けた。 勢いで倒れ込むフェリクス。 無色の魔法少年は女性の遺体を抱き締め、純白の豪奢なドレスでほぼ素裸の遺体を魔法で包み込んだ。 お姉ちゃん、お姉ちゃんと一頻り泣き喚き、遺体の弟は顔を上げた。
 「すぐに大好きな桜と向日葵で一杯の、ぽかぽかのお墓で、ゆっくり眠れるようになるからね。 少しだけお昼寝しててね、お姉ちゃん」
 他の魔女化遺体よりも遥かに優しく、そっと投げられたウェディングドレス姿の女性の遺体は白いコロイド光に包まれ、華やかな純白の棺に納められた。 イルーニャ・ブラギンスカヤ、安らかに眠れ。 棺の側面にはキリル文字でそう、浮き彫りの装飾が施されている。
 「さっき言ったでしょ。 友達が持って来たって」
 イルーニャの弟は無感情に遅れた答えを投げつける。 姉と応対するそれとは明らかに態度も表情も違う、不安定で画一的な真顔。 紫の瞳は高級アメジストの様に深く澄み、フェリクスではない何かを見つめている。
 「お前、お前いかれてるし! 死んだ奴に、こんなありえん仕打ちするとか」
 「へえ。 ローデリヒくんと同じ事聞くんだね。 つまんないなあ」
 フェリクスは震える右手を後ろ手にし睨み付けた。 蛇を目の前にした鼠のように。
 「お姉ちゃんを虐めて、ナターリヤをぼろぼろにして、僕を仲間外れにして来てさあ。 皆は勝手だよね。
 人間じゃないのはどっち? 酷い奴らなのはどっち? 僕達魔法少年じゃなくて、人間の方だよね。 お姉ちゃん達見たいな魔法少年や魔法少女は、昔の僕達を、人間を、魔女から守って来てくれたのに。 死んだら探しもしないで行方不明扱い、酷い時は悪い奴に仕立て上げて、こいつは居なくなった方が良かったんだ! って。 君も厭になるでしょ? フェリクスくん」
 ビル風に靡く網目の荒いマフラー。 時折妖しい煙を帯び、悪魔の尻尾が伸びたかのような錯覚。 突き刺さる陽光が和らぎ、ときわ町を塗り潰す光と影の色差が薄まっていく。
 「何… 何言ってるんよ、お前」
 愉快におぞましい事を発する大柄のソプラニスタは、陽気にステップを踏み、鼻歌を歌い冬服セーラーのスラックス脇腹に突っ込まれた赤い箱を取り出した。 ベルベット風に加工された箱表面をざっくりと撫で、無色の魔法少年は、バレエめいた適当で華麗な一回転を決めた。
 「人間が僕達の事、いらないって言うなら。 僕達が先に捨てちゃおう。 人間達を皆、魔女の呪いで一杯の素敵で不気味で綺麗で汚い結界の底に突き落として殺しちゃおうよ。 めちゃめちゃに壊してぐちゃぐちゃに潰しちゃえばきっとすっきりするよ。 死んだ皆の恨み辛みも忘れられるよ」
 フェリクスは最早全身の震えを隠せない。 震えたまま、左手で悪魔の様な魔法少年を指差した。
 「お前、誰なん。 何やばいこと、しようとしてるん」
 悪魔の魔法少年は満面の笑顔を見せ、上半身をくの字に曲げ、フェリクスの間近に顔を寄せた。 プランクトン一匹すら生き残れない、澄み過ぎた真水の様な紫。 フェリクスは口元を覆った。