ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
でも日々更新されるステイタスは無情にも目覚しい成長を遂げることは無い。セレーネ様曰く「その歳でソロなのによくここまで頑張った」なんだけど、私は全く納得いかなかった。
そもそも、Lv.1の時点でダメだ。下級冒険者と呼ばれてしまう時点で一人前なんて呼べるわけも無い。それにステイタスが示すとおり、私の実力はIランク、つまりドベだ。
このままではダメだ、もっと頑張らないと! でも思ったとおりにステイタスが成長しない…… 何か手がかりがあるはずだ! etc.……
それを毎日欠かさず繰り返して早くも半年が過ぎてしまった。今ではセレーネ様と私の生活費と冒険するための必要最低限の装備を揃えられるくらいの稼ぎができるくらいにはなった。
私たち以外にもたくさんのファミリアがあるけど、ファミリアに所属する団員がダメだったり人数が少ないせいで稼ぎを得られなかったりすると、なんとそのファミリアの主神すら働いて賄うということもあるそうなのだ。
そんなことをセレーネ様にさせるわけには断じて行かず、何とか最低ラインまで追いついたけれど、そこから先の一歩を中々踏み出せない。
ダンジョンに潜る→戦う→消耗する→稼ぎの一部を使う→生活費に宛がう→ステイタスは芳しくない→再びダンジョンに潜る
このジリ貧のエンドレスから抜け出せない……! くそぅ、どうやれば私は強くなれるんだ!? でも一流の冒険者に口がきけないほど格下の私には師事を得られる人脈すら存在しない……。セレーネ様は今のままでも幸せだと言ってくれるが、もともと神様だったのだから不自由を感じているはず。諦めるわけにはいかない!
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思い悩めてから早くも三年が経った。やはり一向に入団志望者は現れないし、私も目覚しい成長を遂げることなくコツコツ努力を積み重ねている。
ここ最近で【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】という二つの探索系ファミリアが名を上げるようになった。私のような世間知らずでも知っているような神様だから入団希望者が後を絶たず、自然と有望な人材も集まりやすいし、その分他のファミリアに入ろうとしていた入団希望者すらも巻き上げちゃうから太刀打ちできないくらい列強なんだって。実際すでにLv.4に突入している冒険者がそれぞれのファミリアに十人以上もいる。
一方私のステイタスはいつもの通り暢気に成長しており、ちらほらFを乗り越えようとする項目も窺える。でもスキルや魔法には全く変化がなくてスロットがスッカスカの状態だ。
でも今ではそこそこの階層までソロで潜れるようになれたし、副次的に稼ぎも多くなってきたから前までのボロアパートから乗り換えられそうだ。
毎日朝早くに出かけては夜遅くに帰ってきてぶっ倒れる私を心底心配してくれるセレーネ様、本当に優しいよ……。私の唯一の癒しです。
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やった! やっと私もLv.2になれた! ダンジョンでたまたま出くわした階層の主を一時間も掛けて戦って倒したら、更新したセレーネ様も驚きをあらわにして祝福してくれた。
いや本当に死ぬかと思ったからねぇ……耐久と俊敏には自信があったとはいえ、目の前で違う冒険者がまとめて吹っ飛ばされたところを見て確信したね。アイツ、強い。いや当たり前の話なんだけど、初めて目の当たりにして実感がなかったからさ、そこでようやく理解したって感じ。
新調しておいた武器でチクチク甲殻の隙間から攻撃しては逃げ回って、時には鬼ごっこも辞さずに戦い続けて、最後の一刺ししたときに階層の主がひときわ大きな悲鳴を上げて倒れたときは疲労より達成感が勝ってはしゃぎまくった。
階層を行きかう冒険者たちも一人で狩ってみせた私に祝福と労いの言葉を掛けてくれた。まあ倒した瞬間を目撃しただけの人たちだったから、私が一時間も無様に逃げ回っていた姿を見ていないだろうけど、違う冒険者から初めて祝福されて涙すらこぼれそうになった。
んで、ランクアップしたついでに私に送られた二つ名が【不屈の奉仕者/セミヨン】
神会デナトゥスから帰ってきたセレーネ様が甚だ遺憾といわんばかりに不満げに教えてくれたのだが、可愛らしい名前だしまさにその通りだから、むしろさすが神様たちネーミングセンスばっちり! って思ったんだけど、どうやらセレーネ様の感性は許さないらしい。
「まったく、私の可愛いクレアにこんな名前を送るなんて考えられないよ! ロキも悪乗りしちゃってさ!」
ぷんぷん怒るセレーネ様を初めて見るけど、ぜんぜん怖くなくてむしろ可愛い。自分で作った祝勝会の料理を食べて至極満悦という顔をするし。二つ名には不満だけど神会で私の話題が挙がったとき悪口らしいことは一つも言われなくて良かったと喜んでいた。
これでセレーネ様の地位も少しだけどあがったはず! この喜びにいつまでも浸っていないで、また明日から精進するぞ!
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私もとうとうLv.4まで登ってきたか……。ここまで来るのに早くも十年は過ぎようとしているね。
一般的に青春と呼ばれるものを経験することなくひたすら自分を研鑽する日々……。でも全く苦痛には感じなかった。むしろ幸福とさえ感じている。何も私がドMだからというわけではなくて、目に見えてセレーネ様の力になれている実感があるからだ。
今はボロアパートから一軒家に変わっていて、家具もそれなりに揃ってきた。Lv.3に上がったときにセレーネ様が「そろそろ私のことも構って欲しいなぁ」と言ってくれたので、さすがに駆け出しのころのようなスケジュールではないけれど、一般的な冒険者より少し急がしめの日々を送っている。
休息日にはセレーネ様と買い物をしに行ったりセレーネ様とご友好のある神様に会いに行ったりとしている。
その中で驚いたことは、セレーネ様の顔の広さだった。ファミリアと言われれば誰もが真っ先にあげるゼウス様、ヘラ様はもちろんのこと、ウラノス様にロキ様にヘファイストス様、更にフレイヤ様とも縁があるようで、神様たちの間でもセレーネ様の立ち位置はかなり高いとのこと。
今の今までそんなことを知らなかった私にみんな一様に呆れた様子だった。何でもセレーネ様は偏屈者の集まりの神様の中で良識のある神様で、それなりの知名度もあるはずなのに一人しかファミリアに入団を許さなかったのだそうだ。余程その一人が凄いはずだと目をつけた神様たちは、箱の中をのぞいた瞬間に失望し、セレーネ様に何でそんな奴を大事にするのかと詰問したそうだ。
しかしセレーネ様は「私の大切な娘を貶すな」と誰も見たことがなかった怒り顔で言い放って今に至る……。
私はそんなにセレーネ様に大切に思われているなんて思わなかった……。もちろん友好的な関係だと思っていたけれど、まさか他の入団希望者を払ってまで私の面倒を見たいと思ってくれていたなんて夢にも思わなかった。
ただの小娘を匿って育ててくれただけに及ばず愛まで下さるとは……セレーネ様のご慈悲に号泣してしまうほど嬉しかった。
「本当はクレアに辛い思いをさせるつもりはなかったよ。でも、どうしても私はクレアと二人で居たかった……ゴメンね」
作品名:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。 作家名:デュース