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さよならヒーロー

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 昔から人に好かれることも多いが敵も多い。
 好かれる内訳は大半が女の子で、背が高くて成績も良くて顔も、なんて上っ面から妄想を膨らませて妙な期待を持って優しくしてくれる。優しくされても親しくはしないからカンチガイして告白されることはあんまりないけど。
 嫌われるのは圧倒的に男からだ。自分が嫌いな人種だと思ったから素直に態度で示した結果だ。そんなつまらない連中に媚びたって無駄だし、そんな調子でも良くも悪くもないそこそこの毎日が続けられた。
 ただ、何か失敗するのだけは許せなかった。テストの点が悪かったり、体育で周囲の足を引っ張ったり。そんなことになったら僕を嫌いな連中に格好の餌を与えることになる。嫌いなヤツを馬鹿にする材料があったら誰だって食いつく。僕だって食いつく。そういう隙を作りたくないから勉強も運動も割と真面目にやっている。元来器用な方だから、そんなに必死にならなくたって良かったし。
 でも、完全無欠な無敵人間にはなれない。一年にしてレギュラー入りしたバレー部で、いくつか勝ち星を重ねた末に、チームが負けた。
 大会会場からの帰り、チンピラみたいな見た目のコーチに料理屋に連れてこられて腹いっぱい食べさせられた。慰められているみたいで堪らない。
 とにかく満腹状態で家に帰りついてすぐに眠り込んだ。風呂も入らないと汚いし、話を聞きたそうにしていた母親ともあまり喋っていないけど、疲労と胃の充足感が絶妙でダメだった。
 抗いがたい眠気のまま眠ったのに夢をみた。眠りが深すぎると夢を見ないらしいのに、夢なんか見なくたっていいのに。
 そこは学校の教室だった。夢特有のつじつまの合わない違和感がある教室。そこにクラスメイトが現れる。今のじゃない。夢の中では同い年だと認識していたけど、姿は小学校の頃のままだった。今よりずっとガキだった小学校の頃に特別仲の悪かった連中だ。今は高校も違うけれど、夢の中ではクラスメイトだった。
「月島、バレー部負けたんだって?」
「お前も試合に出てたんだろ?」
 なんでそんなことを知っているんだ。アホ面を並べて癇に障る喋り方で。僕は無視を決め込んだ。だけど連中は放っておいてくれない。
「背が高いだけで上手くねえんだな」
「負けたのだって月島のところを抜かれたんじゃねえの」
 あんまりうるさくて思わず口を開いてしまった。
 相手がどれだけ強かったのか。こちらのチームは自分の他にも未熟な一年生メンバーを抱えていたこと。入部以前から対して強くもないチームだったこと。
 負けたといっても、最後には全国で一校しか勝ち残らないのだから、どこかしらで敗北して当然だったこと。
 要するに言い訳だ。言い訳がカッコ悪いのをわかりながら、もうやめてという心と裏腹に口は動いて言葉を重ねた。言えば言う程悔しい気持ちでいっぱいになるのに。
 それから何かやりとりがあったような気がするけれど、夢はぼやけていつの間にか目が覚めていた。
 窓はカーテンを引き忘れたまま、外は真っ暗だった。
 気分は最悪だ。夢の中でまで、言われてもいない中傷に言い訳で争って、惨めでバカバカしい。試合の結果には納得しているつもりだった。勝つつもりで戦ったにしても、熟練した相手チームと未熟さの目立つこちらのチームでは善戦した方だろう。頑張った方だ。こんなものだ。母親にだってそう話すつもりでいたのに、本心では夢に見るほど悔しかったっていうのか。
 短い髪をかきむしった。

 夕方に眠るとその後が悪い。いつも寝付く時間に眠れなくなったりする。
 風呂に入って遅い夕飯を食べながら親と話して、案の定眠れなくて暇つぶしに起動したゲームもすぐに投げ出した。
 テレビもダメ。好きな音楽もいつもみたいに気持ちよく聞こえない。だけど無音の部屋で一人でぼんやりしているのも嫌だった。
 手の触れるものすべてに不満が湧いてきて、財布と携帯を掴んで家を飛び出した。
 とはいえ、行く場所なんてそんなにない。家の近くの公園は世闇にまぎれてなんだか楽しそうなカップルがいたのでこれ見よがしに舌打ちをして通り過ぎた。
 少し歩いて入ったのはコンビニだ。用事がなくても用事が作れるのがコンビニだ。何でもいい、財布の中の小銭で帰る飲み物か何か。
 夜の暗さと店の明るさのギャップがモヤモヤした脳に少しだけ効いた。
 特に欲しくもない商品の陳列棚を眺めて新製品のラベルをチェックしているとき、背後から声がかかった。
「ツッキー?」
 山口だった。小学校から一緒で、今も高校もクラスも部活も一緒。ついでに家も遠くない。最寄りコンビニといえばお互いここなのだ。
「こんな時間に何してるのお前」
「えっと、帰ってすぐ寝ちゃったから夜に眠れなくなっちゃって、マンガ読んでたら新刊出てたことに気づいて……」
 手には確かに最新刊が握られていた。人気のシリーズで、最新刊ならコンビニでも買える。
「ツッキーこそどうしたの?」
「僕も同じ。眠れないから……ちょっと散歩ついでに寄っただけ」
 ペットボトルの棚からパッケージだけで選んだ新製品をとった。さっさとレジに向かうと、山口も追いかけてきて、途中でパックのジュースを掴んで同じレジに並んだ。誘ってないけど店から出てもついてくるつもりらしい。
 それ以前に、店から出た僕がすぐに自宅に帰らないと思っている。確かにすぐ帰る気分ではないけれど。
 コンビニを出てぼんやり夜空なんか見上げていたら、急ぎ足の山口が追いついてきた。「お待たせ」って待ってたわけじゃない。
「公園行く?」
「……いいけど」
 コンビニからすぐそこの公園は無人だった。二つ並んだバネ式の遊具に軽く腰掛けて特に盛り上がる話題もなくジュースを飲んで、なんだかわけのわからない時間を過ごした。
 大会の話でも持ち出してくるかと思えばそうでもなくて、何時まで寝てたとか、風呂場のシャンプーが切れていて困ったとか。山口はペラペラ喋っては喉を潤した。
 部活で遅くなることはあるけど買い食いした後はすぐに家に帰るから、夜中に目的もなく会うのは珍しいことだった。家が近くても夜遊びするわけじゃないからそんなものだ。
 普段ならこんなに喋らせてはおかないんだけど、山口が喋らないと僕が話題を提供しないといけないみたいになる。かといって帰る気にもなれなかったから放って置いた。
「あ、ツッキーのやつCMやってるやつだよね?美味しい?」
 少ししか口をつけていないペットボトルに目を留めた。中身があんまり減ってない辺りで察して欲しい。
「飲む?」
「いいの?」
 癖のある風味が飲食物とは思えないペットボトルを差し出すと、代わりに単行本を差し出された。
 山口のパックジュースはもう空っぽで、交換に差し出せるものはそれだけだった。別に欠かさず読んでるシリーズでもないんだけど。
 それは少年漫画でお決まりのバトルものだ。天才である主人公が昔喪った自分の半身を探して旅する物語で、行く先々で事件に巻き込まれては敵を叩きのめして倒していく。正義漢じゃないけれど、自分の気に入らない相手を自分の利害だけで倒すと弱者が助かる。それで都合よく慕われ、旅に同行する相棒も出来る。
作品名:さよならヒーロー 作家名:3丁目