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比翼連理 〜外伝2〜

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7.悔諾

 ―――まったく、あの男は。
 暇を持て余しての余興を求めたのか。些か、担がれた死神が哀れにさえ思う。

「――失礼します、アテナ」
「あら、もういいの?突然の訪問者はもう帰ったの?」

 傍付きの者と他愛ない噂話をしていたであろうアテナは訪れたシャカの顔を見ると手招きをした。従者たちに向けて一言二言告げたアテナの傍から従者たちが離れていく。どうやら人払いをしてくれたらしい。

「お気遣いありがとうございます」

 謝意を示しながら、促されるままに椅子へと腰掛けたシャカを興味津々の眼差しでアテナは眺めていた。根掘り葉掘り聞きたくてウズウズしている感、丸出しである。正直、この手の状態のアテナは苦手だ…と内心で思いながらも、シャカは常の無表情を崩しはしなかった。

「それで?一体あちらはどんな重要な用件でいらしたのかしら?」

 早速の質問に面食らいながら、さてどう答えたものかとシャカは思案する。女神宮へ訪れる前にすでに予想していた質問だ。それに対する答えは事前に用意してあったはずなのだが、屈託なく笑顔を向けるアテナを前にして、隠すことも偽りを告げることもどうやら自分にはできないらしいとシャカは内心で己を笑っていた。
 非常時でもないのに冥界の者がノコノコと聖域に現れるはずもない。しかし、理由があのような戯言だとはアテナを前に面と向かって真正直に話すわけにもいかぬだろうとシャカはうっすらと誤魔化すような笑みを浮かべた。

「遠まわしに言えば……冥王は退屈しているようです」
「だったら、ご自身でいらっしゃればよろしいのに。歓迎いたしますわよ?」

 含むことのない笑顔を手向けられて、さすがに頬が引き攣りそうになるシャカである。簡単に言ってくれるが、ことの重大さをわかっているのだろうかと僅かに頭痛さえ催す。この能天気さはある意味、貴重かもしれないと思ってはみたのだが。

「それはいくらなんでも……拙いのではありませんか、アテナ」
「そう?残念だわ。賑やかになるでしょうに」

 賑やかどころか大騒ぎだ……。ぼそりと疲れたようにシャカは答えたが、一向に気にしないアテナは天真爛漫さを盾に捲くし立てた。そのたびに「ええ」とか「まあ…」など曖昧に返答するシャカであったが、いつの間にやら話がおかしな方向に流れ出した。

「様子、見に行ってきてくれません?」
「え?私が、でしょうか」
「心配でしょう?」

 無邪気な笑顔で言い切ってみせるアテナ。相手がアテナでなければ六道にでも陥れていたかもしれない。眉間を僅かに引き寄せながら、「まさか」とだけ答えるのが精一杯であった。本格的に拙い流れへと変わる前にここは早々に退散するべきだと判断したシャカは勢いをつけて立ち上がった。

「それでは私はまだすべきことがありますので…失礼致します」

 日本式に深く礼を取り、くるりと背を向けた。

「待って、シャカ。超法規的措置ということで冥界へ行ってはくれませんか?」
「……どのようなご懸念がおありなのでしょうか?」
「え?」

 言葉を詰まらせたアテナにシャカは冷たく冴える顔をもう一度向き直した。

「アテナの…聖域の使者として向かうというならば、それ相応の“大儀”が必要かと。向こうが先に約束なく聖域を訪れたからといって、こちらも同様にというわけにもいかないと思うのですが。冥界の動きによって聖域に新たな脅威が齎される、というのであれば喜んで偵察でもなんでもお引き受け致します」

 一個人としての興味だけで、安易な考えで行動すべきではないとアテナへ忠言する。些細な戯れ事が大事に至ることだってあるということを、聖域を統べる立場にあるアテナにはわかっていて欲しいという老婆心とともに、わざわざ火中の栗を拾う必要もあるまいと思うのだ。

「ごめんなさい、私……」
「……ですが、アテナのお心遣いには感謝しております」

 明らかに落胆した様子のアテナにやんわりとシャカは告げる。すると気が楽になった様子のアテナは少しの間だけ思案すると新たな提案を持ちかけてきたのだった。
 アテナとの謁見を終えたシャカは自宮へと戻る道すがら「なぜこうなる?」と首を傾げるしかなかった。

 ―――ならば、シャカ。これはあなた個人の問題。
 個人の問題が聖域に害を及ぼすことがあってはなりませんよね?
 でしたら、あなたは問題を解決するべく「個人的に」行くべきですわね?

「まったく、誰の入れ知恵か」

 理詰めで煙に巻くつもりだったが、アテナもどうやら彼女を補佐すべく傍にいる同僚たちに鍛えられていたらしい。邪推かもしれないが、どこかで謁見の様子をのぞき見て、アテナにこっそりと耳打ち(この場合は念話というべきか)していたのかもしれない。
 思い当たる個人名を脳内に浮かばせながら、シャカにすれば珍しく小さく舌打ちながら、石段を駆け下りていった。

「それに…考えようによっては悪くはない提案か」

 忘れ易いあの男の事だ。時が過ぎれば、とぼけること確実で、この機会に灸を据えておくほうが無難――とシャカは思い直すに至った。


作品名:比翼連理 〜外伝2〜 作家名:千珠