黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 22
「ふん、なるほどな……」
ガルシアは締め付けていた手を離した。
「もう、貴様に用はない消えろ……」
「ひいいっ!」
ガルシアの手から逃れ、オークは命からがら逃げ始めた。
「……地獄にな!」
ガルシアは、オークの背中を、一瞬にして鉤爪で切り裂いた。
爪に含まれた毒により、オークは瞬く間に溶けて消えていった。
ガルシアは融合を解除する。
「ガルシア、今聞き出したのって、ひょっとして?」
ピカードには、オークの言っていた少女に心当たりがあった。
爆発的な火のエナジーを使い、彼女はガルシアらと一度共闘している。
「どうやら、助けなければならない人が増えたようだな……」
彼女は、このマグマロックに程近い、ボルケイ村という場所の長の孫娘。
「あの魔物が言っていたことに嘘がなければ、囚われているのは、フォレアだ」
ガルシアは、あの時共に戦った果敢な少女を、忘れてはいなかった。
※※※
部下の報告を耳にし、獣は驚愕した。
「何だって!? 外の衛兵も、中の守りも全滅しただって!?」
バルログはものすごく驚き、叫んだ。
報告に来た者によると、侵入者はたった二人の人間であり、類い稀なる魔術の力と武によって、マグマロックを守っていた魔物は全て打ちのめされていた。
「その通りです、バルログ様。このままでは、そやつらがここに来るのも時間の問題かと!」
バルログは、要塞の中庭に築いた、暗黒錬金術の礎のある場所にいた。そこはもともと、火山のようなマグマロックの火口部分であり、火のエレメンタルがもっとも満ちた所である。
「ぐうう……! こうなれば、しらを切り通すぞ! お前が俺様のふりをしろ。お前がやられている隙に、俺様はマーズスターを持ってここから逃げ出す!」
「そんな、待ってくださいよ! そんなのオレが殺されるってことじゃないですか!」
「やかましい! 貴様のような下級魔物、消えたところで痛くも痒くもないわ!」
「オレは痛いですよ! というか死ぬ前提じゃないですか!」
「バルログ! ここにいるか!?」
バルログとその部下が言い争いをしている間に、マグマロックの侵入者がやって来てしまった。
「ひいいっ! バルログ様、あの二人です!」
バルログの部下はガルシア達を見て震え上がった。助けを乞おうとバルログを振り替えると、バルログはどこから出したのか、頭に三角巾を被り、前掛けを付け、片手に箒まで持っていた。
「あーら、アタシはただの掃除係よ? バルログ様ならとーっくに逃げたんじゃない?」
バルログはだみ声で、見るからにバレバレの演技をした。
「……へ?」
あまりにもバレバレで、唐突すぎる変装に、ガルシアとピカードは呆気にとられてしまう。
その場にシラーっとした空気が流れた。
痛み入るような空気に耐えかね、バルログは部下の首を抱き寄せ、耳打ちする。
「何をしている? 早くお前が俺様だと宣言するのだ。俺様はこのまま掃除のおばちゃんを装って逃げる」
「だから、そんなのオレが死ぬだけじゃないですか!」
「やかましいわ! 俺様は死ぬわけには、というより死にたくない。さっさと行け!」
バルログのひそひそ話は、声が大きく、ガルシア達にしっかりと聞こえていた。何より、バルログの変装自体に、彼を間違える要素がない。
「……ガルシア、こんなのにいつまでも付き合っている場合は……」
「……くそっ! バルログめ、一体どこに!?」
明らかに目の前にいる掃除係がバルログと、誰の目にも分かるというのに、ガルシアはあたかも、本当に騙されているかのように言った。
ガルシアの予期せぬ返答に、ピカードは目を剥いて驚いた。
「ガルシア、一体何を言っているのです!?」
ガルシアはピカードを無視する。
「はっ、さては横にいる獣! 貴様がバルログだな!?」
バルログの部下は驚き、戸惑った。まさか、こんな下手な芝居が効くなどと思いもよらなかったのだ。
と言うよりも、ガルシアは魔力こそ強いが、馬鹿なのではないかと思っていた。
そんなことを考えている間に、ガルシアは魔導書を開き、黒魔術を唱えた。
「魂の一閃、『デスチャージ』!」
ガルシアの影が塊となり、影が空間に出現した大鎌を手に取り、魔物に向かって振るう。
「そんな、……ぎゃあああ!」
魔物は肩から斜めに切り裂かれ、骸と化すと、霧散して消滅していった。
あまりの早業に、バルログの囮作戦は失敗に終わった。もう少し戦闘が続くかと思いきや、火口の礎のマーズスターを取ることはおろか、逃げ出す体勢すらも取れなかった。
「……さて、茶番は終わりだ、バルログ。さっさとその下手な変装は止めて、大人しく消されるがいい」
「んがっ!?」
バルログは変な声をあげてしまった。
苦し紛れの変装ではあったが、あの日、デュラハンが現世に蘇った時、バルログはアネモスの巫女、シバを浚ってすぐに退場したため、面は割れていないと思っていたのだ。
「ガルシア、ある意味心配しましたよ。あんなバレバレな変装に騙されてるなんて、気でも触れたかと思いましたよ……」
ピカードはとても安心していた。
「ふん、随分な滑りようだったからな。哀れに思い、騙されたふりをしてやっただけだ」
ガルシアは茶番を演じた意味を告げる。
「お前達、俺様の顔を知っていたのか!? センチネルや、シレーネのアネゴならともかく、俺様はさっさとはけたというのに……」
「ふんっ、貴様を知らないとでも思ったか、愚か者め。シバを浚った貴様を忘れるはずがなかろう」
ガルシアは更に迫る。
「言え、バルログ。貴様らの言うアネモスの巫女、シバをどこへやった!?」
バルログは、ようやく変装具を捨て、答えた。
「ふん、知らんな! 少なくとも、ここにはおらん!」
バルログは、空間に巨大な槌を出し、それを手に取って地面を叩いた。すると地面に少しひび割れが走り、割れた地面から、まるで虫が涌くように魔物が沢山出てきた。
「魔界の者共、かかれ!」
バルログは大量の魔物を召喚した。一匹は小さいものの、その数は百をゆうに超えている。
「なんて数の魔物だ!?」
ピカードは驚きを見せるが、ガルシアは落ち着き払っていた。
「毒川の流れ、『ポイズン・ストリーム』!」
ガルシアが詠唱すると、猛毒を含んだ真っ黒な水が、ガルシアの前から魔物の大群に向かって押し寄せた。
「な、なにいっ!?」
強力な毒を持った水は、触れたものを一瞬にして溶かし、魔物達は次々と毒の水に消えていった。
数百もの魔物の大群は、いとも簡単に消えてなくなってしまった。
「……あくまではっきりとは答えぬつもりか。ならば力ずくでも口を割ってもらうぞ!」
ガルシアはバルログを指差し、言い放った。
バルログは怯んでいたが、戦闘体勢を整えた。
「ぐぬう……! こうなれば破れかぶれだ、返り討ちにしてやる!」
バルログは空中でヒランヤの魔法陣を描き、それを大槌で叩き付ける。
「いでよ、魔界の獣王、ザガン!」
バルログが叩き付けた魔方陣が、空間を打ち破り、この場を異世界と繋いだ。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 22 作家名:綾田宗