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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 22

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 娘は、野犬のような魔物に、衣服を食いちぎられた。
「んっ……!」
「こら、それは食してはならん!」
 オークは魔物を追い払った。
「確かに女の肉は旨いが、これはバルログ様に差し出さねばならん。惜しいが、我々は愚かな男どもの肉で我慢だ」
 オークは丸太を担ぎ上げ、縛られた娘の顔を見る。娘はオークから漂う激臭に吐き気を催す。
「しかしこれほどの女、さぞかし旨いのだろうな……。バルログ様は今、あの人間の女に執心している。喰らっても構わぬか……?」
 オークは顔を近づける。
「うむ、頬を少しかじるくらいならば、バルログ様もお許しになるか? ……辛抱ならん、少しだけ、いただこう!」
 オークはついに、人の首をいとも容易く平らげる口を開いた。
 娘はオークのとてつもない激臭を感じながら、最大の恐怖と共に最期を覚悟した。
「死霊の誘い、『デス・フォーチュン』!」
 突如、魔術の詠唱と共に、漆黒のナイフが飛び、オークの急所を貫いた。
「が、あ……?」
 そして瞬く間に、オークに死霊の呼び声が響き、死して地に伏した。
『チルドマウンテン!』
 エナジーが周辺の空気中の水気を凍結させ、人の血肉を喰らっていた魔物達を氷に閉じ込め、二度と覚めぬ眠りにつかせる。
「な、なんだ貴様らは!?」
「よそ見をするんじゃない!」
 もう一体のオークは、不意打ちで腹に蹴りを受け、勢いそのまま川へと吹き飛んでいった。
「うわ、止せ! ぐわああああ!」
 オークは川に多数存在する、肉食魚の魔物に集団で啄まれ、川底へ引きずり込まれていった。
「おい、大丈夫か!?」
 娘は、その後自分がどうなったのか分からない。自分を呼び掛ける声を、遠くに聞きながら、気を失ってしまったからである。
    ※※※
 ハイディアの地より、アネモスオーブの力で、ガルシアとピカードは、ゴンドワナ大陸へとやって来た。
 アネモスオーブで転送され、たどり着いた場所は、マグマロックへの道を隔てる、大河の岸であった。
 ハモの計算が狂っていたのか、マグマロックには僅かに届かない位置である。
 しかし、たどり着いた先でガルシア達は、偶然にも、人が魔物に喰らわれる惨状に出くわした。彼らは急ぎ、魔物を討ち滅ぼし、襲われていた人間を救おうとしたが、一足遅く、男達を救うことはできなかった。
 しかし、生け贄として捧げられんとしていた娘は、奇跡的に生還し、魔物の集団から助け出すことに成功した。
 そして今、ガルシア達は、河原で救った娘を連れ、キボンボ村へと歩みを進めていた。
「少女の様子はどうだ、ピカード?」
 ガルシアは訊ねる。
「少々息が荒くて、脈も早いですが、命に関わる事はありません。よほど怖かったことでしょう」
 ピカードが娘をおぶさっていた。
 あの惨劇の後、ガルシア達は、娘を縛り付ける縄や猿ぐつわを外し、衣服は魔物に引き裂かれていたので、ガルシアの青いマントをその細身に纏わせてやった。
 大きな外傷はなく、娘は恐怖のあまりに気絶していたようだった。エナジーで対処できることがなく、今はキボンボ村へ連れ帰ることしかできない。
「……それにしても、ひどい話ですね。自分達が助かりたいがためだけに、こんなに幼い子を生け贄にしようだなんて」
 おまけに、屍と貸した男達の身に付けるものは、まさに邪教徒のものだった。
「人とは勝手なものだ。すがり付くものがなくなれば、途端に冷静さを欠くのだからな……」
 ガルシアは、レムリアで見た、この地の様子を思い出していた。
 かつてガルシア達は、ガンボマという神を信仰し、その長を務めていた男、アカフブを磔にし、人々が拷問を与えている様を見ている。
 その後アカフブがどうなり、人々がどのように変化したのか、想像に難くなかった。
 大方、アカフブを真の邪教徒と判断し、拷問の末死に至らしめたのだろう。その後人々は、自らが救われることを望み、デュラハンへと媚へつらうようになったのだ。
 しかし、デュラハンからの救いなどありはしなかった。その結果が、あの男達である。
「ガルシア、一度ハイディアへ戻りませんか? 今回はこの子を助けることができましたが、きっとまた……」
 キボンボ村へ帰し、果たしてこの娘が幸せか、ピカードは疑問であった。恐らくまた生け贄とされ、今度こそ魔物に喰らわれる。そんな思いがあったのだ。
「ピカード、お前の気持ちも分かるが、それは無理だ」
 ガルシアは、赤褐色のアネモスオーブを取り出した。それは、ガルシア達をここに運んだ際に、力を発したため、いとも容易く砕け散ると思われるほどにひび割れている。
「……恐らく再び力を解放すれば、間違いなく砕けるだろう。もう俺達に引き返す道はない。それに、その少女をハイディアの地へ連れ帰ったところで同じこと。早急にデュラハンを倒さねば、ハイディアも長くは持たん……」
 ガルシア達にはもう、突き進む以外に道はなかった。それに今は、デュラハンを倒す前に、暗黒錬金術を阻止するため、マグマロックを根城にするバルログを討たなければならない。
「ですが、ガルシア、マグマロックへどうやって行くのです?」
 ハモのくれた、『テレポート』の力を与えてくれるアネモスオーブは、何故かマグマロックへ直結していなかった。
 マグマロックを隔てる川は、肉食魚の魔物の巣窟であり、船を出したとしても船底を食い破られ、そのまま魔物の餌食となってしまう。
 川を進むという事は、そのまま死を表していた。
「分かっている。だからこそ、今はキボンボ村に行く方がいい。村の民ならば、マグマロックへ行く方法をなにか知っているやもしれん」
「そうかも知れませんが……」
「む、ピカード、あれを見ろ!」
 ガルシアは前方を指差した。瘴気の影響で視界は悪いが、その先には確かに煙が上がっているのが見える。まもなく人の住む集落がある証拠であった。
「とやかく考えるのは、まず村に着いてからだ。少女の具合も心配だ。急ぐぞ」
 ガルシアは足早に村を目指し、歩みを進める。
「待ってください、ガルシア!」
 ピカードも後に続いた。
 それからしばらく歩くと、集落が見えてきた。
 世界を覆う瘴気の影響は、ここも例外なく受けていた。そろそろ日は傾く時間ではあるが、空は暗く、空気もどこか重苦しい。
 前に一度来たときには、茹だるような暑さだったというのに、太陽が黒い霧に包まれているせいで、年中暑いはずのこの地は、晩秋のアンガラ大陸の気候と同じである。
 そのような環境のためか、村は廃れ、外を歩く者は誰もいない。
 しかし次の瞬間、突然藪の上からがさがさと音がした。そして同時に、前方から何本もの矢が放たれる。
「ピカード、そこから動くな! 地獄の業火『ブレイズ!』」
 ガルシアは魔導書、ネクロノミコンを開き、エナジーを魔術として放出した。 空間に魔法陣が展開され、その中心から地獄で燃え盛る炎が打ち出され、迫り来る矢を焼き付くした。
 ガルシアは矢が飛んできた方に目をやる。装飾やフェイスペイントで、上手く茂みに身を隠してはいるが、彼らはキボンボの民だと分かる。
 ガルシアは間髪入れず、自分達を狙い、敵に矢を再びつがえられる前に、更なる黒魔術の力を発揮する。