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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 22

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 ガルシアとピカードに姿をみせた者は、小柄で細身である。白いガウンに身を包み、鉢巻きのような物を巻き、額の中心には、羽飾りがあった。
 恐ろしい柄のフェイスペイントをしている。しかし、アカフブならば、必ずあるはずのものがない。
 それは、彼のトレードマークともいえる、赤いアフロヘアーである。今はアフロヘアーだったという面影すらない、赤っぽい坊主頭をしていた。
「久し振りだな、ガルシア」
 ガルシアは驚きのあまり、魔法を止めていた。アカフブの登場により、戦士達も弓を下ろした。
「お前、アカフブ、なのか……?」
 アカフブは頷くのだった。
    ※※※
 デュラハンが世界に出現し、世界を我が物とするため、彼の者が世界を混沌に陥れた時、発生させた瘴気は、ゴンドワナの地も例外なく包み込んでいた。
 大悪魔、破壊神、魔王など、デュラハンにはいくつもの呼び名があったが、キボンボの民はデュラハンを、悪魔、と呼称した。
 キボンボには、古くから崇拝されている神がいた。キボンボの長を担う者に、黒魔術の力を与える、と伝えられている。
 しかし、キボンボの長が、黒魔術の力を得るためには、キボンボの神、ガンボマを呼び起こすための儀式が必要であった。
 神より黒魔術を授かるのに必要なものは二つ。
 一つは、ガンボマ神にふさわしい宝玉、もう一つは、黒魔術を扱えるだけの素質のあるエナジーである。今の村の長、アカフブであれば、十分足り得るエナジーがあると言える。
 しかし、儀式を行うに当たり、ある危険が潜んでいた。黒魔術の儀式の失敗により、ガンボマ神の怒りを買う、というものだった。
 儀式者の力が、黒魔術を得るのに、相応の力を有していなかった場合、ガンボマ神は怒り、村に災厄をもたらすという伝承が残されている。
 そうした危険の下、アカフブは、黒魔術の儀式の準備をすべく、ガンボマ神に捧げる宝玉を、手段を選ばず手に入れようとした。そしてついに手に入ったものが、レムリアの船の動力源である黒水晶であった。
 アカフブは、儀式に必要な物を全て揃え、ついに儀式を行った。しかし、その途中、ガンボマ神の怒りを買ったと思われる出来事に遭遇してしまった。
 儀式において、ガンボマ神の黒魔術の力で生きる偶像が、火を吹いたのだ。このような事があれば、キボンボは遠からず滅亡する言い伝えがあった。
 その時アカフブは、ガンボマ神の怒りは、儀式によるものではなく、自らを含め、参加者の信仰心が足りないためだとした。
 今になって考えてみれば、ほぼ伝承通りである。ガンボマ神の怒りを買い、キボンボは滅亡の一途を進んでいる。尤も、その滅びは、ガンボマ神の力ではなく、大悪魔デュラハンによるものであるが。
 こうして、ガンボマ神の怒りを買う原因を作ったとされ、アカフブは民より弾圧されることとなってしまった。
 そしてアカフブは、ガンボマ像の前に磔にされ、ガンボマ像のように無惨な姿とされている。そのはずだった。
「アカフブ、お前の話が本当ならば、どうしてお前は生きている?」
 ガルシアは訊ねた。
「その通り、本来ならば、オレは生きているはずがない……」
 アカフブは話を続けた。
 今、キボンボ族は、二つに分かれている。
 一つは、ガンボマ神への信仰を捨て、デュラハンからの破滅から逃れることを願い、デュラハン達魔物に魂を売った者達。
 もう一つは、変わらずガンボマ神を信じ続け、その指導者たるアカフブに付いていかんとする、義理堅い者達である。
 しかし、キボンボの民のほとんどがガンボマ神を捨て、デュラハンへと下っている。そのためにアカフブは迫害を受け、民に命までも奪われんとした。
 本来ならば、アカフブは既に死んでいるはずだった。しかし、アカフブへの、民による反発が強まるにつれ、とうとう磔にされようとしていた時、アカフブに成り済まして彼を助けてくれた人が現れた。
 それが今、朽ち果てたガンボマ像と共に、見るも無惨な姿となった者である。
「影武者、と言うやつか……」
「なんとひどい……」
「……あいつは、最期までガンボマ様を、いや、同じくらいにオレを信じてくれた。もちろん、オレは奴を止めた。しかし、いつしかガンボマ様のお力が世界を救ってくださる。その日が来るまで、オレが死ぬようなことがあってはならない。そう言ってあいつは、自ら死を……」
 アカフブは、自らを信じてくれる物の説得に押し負け、成り済ます事を許したのである。その時、自慢の赤いアフロヘアーを剃りあげ鬘として、変装の手伝いをした。
 その後、アカフブは戦う決意をするが、最早外へ迂闊に出ることもできなくなった。アカフブに成り済まし、死を選んだ者と同じく、アカフブを信ずる者達に匿われることとなったからである。
 アカフブは、それに甘んじることしかできなかった。デュラハンに下った民は、今は村を出ていき、村から程近いミング山脈の麓を根城にしているが、もしも彼らに見付かるようなことがあれば、その時こそ、アカフブの最期である。
 成り済ましは、恐らくもう通用しないであろう。今度は確実に殺される。そうなれば、アカフブの代わりに死んだ者の思いを無駄にすることになってしまう。
「オレは、オレ自身が許せん……。抗いたくとも、それは奴を裏切ることになる。歯がゆいものだ……!」
 アカフブは、卓を強く叩き、両手をギリギリと握りしめる。どうすることもできない自分が情けなく、悔しかったのだ。
 それから、アカフブが隠れ暮らす日々が募るにつれ、デュラハンに下った民は、デュラハンへの生け贄として村の娘を浚っていくようになった。
 その度にアカフブの部下達は抗戦したが、数に圧倒され、結局一度たりとも村の娘を救うことはできていない。ただ一人、今日ガルシアとピカードが救った少女を除いて。
「……このような思いを繰り返すくらいなら、いっそ死んだ方がマシだ。オレが死ねば、もう村の者誰一人として無駄な血を流さずに済むというのにな!」
 アカフブは悔しさにうち震え、ついにその目に涙を浮かべた。
「アカフブ……」
 ガルシアは、呼び掛けるより他無かった。ガルシアの告げようとしている言葉は、アカフブ自身がよく分かっている事だからである。
「……分かっているさ。オレが死んだら、オレに代わって死んでくれた者、離反者達と戦い散っていった者、そして生け贄にされた者、その全ての気持ちに背くことになる。分かっている、分かっているが、オレはもう嫌なのだ!」
 思えば、アカフブは黒魔術を得んがため、数々の悪行を働いてきた。ピカードから黒水晶を奪うよりも前に、ガンボマに捧げる宝石を見付けるためには手段を選ばなかった。
 マドラの町に襲撃した時には、多くの町人を傷付けていた。今、アカフブがこうなっているのは、その報いを受けているとも考えられる。
「……ガルシア、ピカード。お前達は、マグマロックにいるデュラハンの手下を倒すために来たと言っていたな。どうか頼む。オレはどうなっても構わない。民のため、犠牲となった者達のためにも、デュラハンを倒してくれ……!」
 アカフブは、必死に願った。
「そんなの、頼まれるまでもないよ」
 ピカードは言った。