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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十話「グリーフ・ラッシュ」

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 唐突にビープ音を吐き出す小型モニター。 ハルドルはスコープから視線を離すと、穢れ観測装置が送信するリアルタイム映像の縮小された数十基の一つに魔法的なエラーが発生していた。 黄金に輝く粒が舞う異様な光景。 海浜公園近くの機体だ。 そう遠くない地点から黒煙が蠢き炎の手が上がっている。 光学迷彩の魔法プログラムは正常だと言うのに、明らかにカメラを睨み付け、レンズ周囲を見回すかのような動きを見せる、大柄の金髪碧眼が一人。 制服姿の男が決断的に右掌を画面に向けると、音声障害は悪化し、完全にエラー機体の音声入力はジャックされた。
 作業を終え画面を凝視した後、銀髪の妖精は防音ヘッドホンを外して叫んだ。
 「ルッツ!」
 『兄さ… 兄貴! 今どこに居る』
ハルドルはタイピングし、金色の魔法力を放つ青年のライブ映像を拡大した。
 アーサーの言った、現役引退した魔法少年の特徴と一致する。 交渉は決裂したとイオンからは連絡があったが―
 「カークランド邸、知ってるだろ!? ときわ史で習ってる筈だ、そっから南の小高い」
 『確かときわ中魔術部、魔法少年グループの本拠地か』
微かに記録された異様な魔性の鳴き声。 ルートヴィッヒは画面明後日に視線を向けながら続ける。 焦るな、相手は敵対者ではない、中立の立場と言うだけだ、落ち着いて対処しろ。
 ハルドルは高揚しすぎた息を整えた。
 「俺はんどの仕業だばね(俺達の仕業じゃない)」
 「そうだぜ、魔術部は魔女産みまくるテロ集団なんてとんでもねえよ、むしろ」
嘘一つ無い、嘘一つ言えぬ妖精、ギルべぇが割って入る。 麗しい金髪のオールバックは向き直り、目を大きく開いて、ほんの小さく驚いた。
 『何だと?』
ルートヴィッヒは視線をカメラレンズから外し、厳つい手で口元を覆い一考した後続けた。

 『…ならば俺の勘違いか。 あれは、アーサーが抱えていたあのソウルジェムは無関係か』
 「何だど(何だと)?」
脳内で凝り固まり形を成していく疑心。 アーサーがフェリクスのソウルジェムを抱えて姿を消したのは他の部員内では周知の事実だ。 恐らくトーリスも覚えているだろう。 しかし何故?
 『ときわランドマークの方へ走っていたが、あいつは死体愛好の趣味でもあるのか? ―いや、まさかとは思うがな』
退役魔法少年は拳を軽く握り口元に持っていく。 甘く噛んだ下唇。 こいつは何か知っている。 ハルドルは直感した。
 「おなごたきやし以外サ(女たらし以外に)、心当たりがあらのだな(心当たりがあるのか)?」
 『大有りだ、あの男は… 俺の友人でもあった、菊を失った直後、【親友の菊を完全に生き返らせる為の力が欲しい】。 そう願って魔法少年となった。
 親友を失って以来― 俺が十字軍を抜けた時も相当に執着していたが』

 タイピングの手が止まった。 魔法少年を生き返らせる? それも完全に? アーサー当人は黙して語らなかった事実と、見当も付かなかったホワイダニットがほんの少しずつ繋がっていく。
 マッピング進捗七十パーセント。 乾き始める喉をペットボトル詰めの麦茶で潤し、ハルドルは久しく部外者の話に熱心に耳を傾けた。
 『アーサーの契約が交わされた直後、菊が再び目覚める事は無かった。 俺は始め、兄貴は願いを叶えなかった、契約不履行かと疑ったが、インキュベーターの馬鹿正直はお前も知っている筈だ』
 早くなる鼓動。 荒っぽく深呼吸しハルドルは答える。
 「…言いたぐね事(言いたくない事)、言ったきや都合の悪ぐのら事ば(言ったら都合の悪くなる事を)、堪えら事も出来ね馬鹿だ(堪える事も出来ない馬鹿だ)」
 真夏の昼時とは思えない寒々しい空気が満ちる。 しょぼくれる妖精を無視し魔法少年達は真剣に自らが持つ情報を出し合い丹念に議論を重ね合っていく。 疑いが例え濃厚となっても、【疑わしき】だけを理由に無辜の仲間を魔女裁判にかけるなど、彼等も望んではいないのだ―。
 『軍の去り際、俺は忠告した。 残るフェリクス、アントーニョ、ローデリヒの三人にだ。 アーサーは元々手段を選ばない性分で、何度も何度も俺を含め十字軍の魔法少年達に、魔法少年に付いて根掘り葉掘り聞いていたからな。
 【アーサー・カークランドはどんな手段を使ってでも、魔法少年となった今でも、菊を蘇生させたがっている。 だから気を付けろ、俺達に何かあっても、アーサーに煽られても絶対に魔法少年にはなるな。 彼はどんな悪魔の囁きにも応じる危険人物だ】と』
 「だがあいづ等は(だがあいつ等は)、フェリクスどローデリヒは(フェリクスとローデリヒは)」
 「知っての通りだぜ、俺様と契約済みだ」
不機嫌に何度も尻尾を振り下ろし、妖精は右手指を折り、その掌に左手で何かを描く様な素振りを見せながら応対した。 緊張の糸は見えずとも、限界まで張り詰めているのはギルべぇにも分かったからだ。
 『だが、俺の忠告より前から、仕組まれていたとしたら』
伸び悩む進捗度に声にならない焦燥を吐き、ハルドルの思索は強張って、とても一つの感情で片付けられぬ複雑な表情を見せていた。
 『あの日も、グリーフシードさえあれば俺は何があろうが二人のジェムを浄化していただろう。
フェリシアーノと菊を失った直後は、単純に運が廻らずグリーフシードを切らしたのだと。 俺が如何足掻いた所で、結果は変わらなかったと自虐もしていた』

 『だが今になって、全て【何がしかの指向性を持ってグリーフシードの囲い込み】が行われていたとしたら。何も出来ず、魔女化した菊の結界にフェリクスとアーサーが呑まれる様を不意に思い出して以来、その推察が頭を離れん』
幾ら腕利きの魔法少年であろうと、限界までソウルジェムを濁らせた状態で、グリーフシードを使い潰していれば何も出来る筈が無い。
 そして、魔女を目前とした未契約の少年少女が、危機を脱する為に取れる手段はただの一つだけ。
 ハルドルの脳内で、予想していた最悪の状況よりも、遥かに恐ろしく最悪の地獄絵図が具体的な設計図や開発思想と共に組み上がり実体化していく。 魔術部結成を呼び掛けたのも、魔術部の行動方針を固めたのも全てあの不良男。 無毒化グリーフシードの発案も… 今年に入って初めての遠征で、あすなろ市、例のアンジェリカベアーズ博物館に行った直後、疑似グリーフシードと異常な大荷物を引っ提げたアーサーが大本―。
 一旦小型砲を放り、ハルドルは窓から土足でときわ中魔術部室内部に雪崩れ込む。 アーサーが封印した開かずのウォークインクローゼット。 慌てて靴を脱ぎ、後を追う妖精を余所に異常に冷えた南京錠を強引に引き千切り扉を開けた。 暗闇を穿つ照明が虫の羽音にも似た唸りを上げる。

 アーサーが愛用する大小中の蛍光緑。 部屋中にドライアイスのブロックが積まれ、魔法薬液が詰まった大きな標本瓶を、見てはならぬと言わんばかりに覆い隠している。