魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話
廃墟の如き惨状を晒すときわランドマーク展望台上、魔法少年達の語らう反対、西側より迫りくる新たなプロペラ音に太陽の水子魔女は反応した。 海浜公園に墜落したものとはまた別会社の民間報道ヘリ。 魔女は一般人には視認できない為、自衛隊や近隣都市からの救援ヘリは、正体不明の謎の殺人空間に赴くわけにも行かず、民間報道ヘリよりも遥か遠い数キロ遠方で待機を続ける他ない状況であった。 何たる愚かな報道精神か!
ヘリコプターの飛行音に拒否反応を示す太陽の水子魔女は当然の如く接近するヘリに狙いを定める、だが!
小銃の発砲速度を超えて伸びる黄金色。 銃口が弾丸を吐き出す咆哮よりも早く、金色の魔法は、落ち着いたオフホワイトと黒ずむ紺を基調とした、袈裟を纏った仏教的モンク姿の、黄金の魔法少年。
魔女狩りを引退した筈のルートヴィッヒは、弾丸姿勢で浅葱に発光を始める砲身を、瞬く間に【太陽の水子魔女右肩を可働域限界まで捩り上げ】飛び降りた! 遅れて弾き出る浅葱は暗雲上空へ発射! 魔女と言えども人間の肉体に囚われし存在、檻の稼働域を超えた動作は不可能!
もがく余裕も無い水子魔女を締め上げたまま黄金の魔法少年は展望台ガラスを足場に斜め下方に跳躍、暴風の蹂躙に耐え凌いだ塵汚れに塗れた無色は粉砕し飛散する! 太陽の水子魔女は続けざまに発砲、ヘアピンカーブし一点集中エネルギーがルートヴィッヒ背面を襲撃、眼前には商業ビル屋上! 咄嗟にベテラン魔法少年は義手に防護魔法を展開、黄金の剣状オーラを放射し方向転換回避! 傍に見える潮の香り漂う廃工業地区。 ここしかない!
追尾する浅葱の呪いを【閃光】の魔法の急ピッチ放射で強引に振りほどき強行着陸する! 正方形状の保護魔法上を幾度と転げ、脆弱で高価な義手が粉微塵に砕け散り、纏め上げた前髪が振りほどけ、額に右背、左膝から滲む鮮紅。 水子魔女も無傷とはいかぬ。 圧し折れた左膝を引き摺り、嘗てソウルジェムを輝かせていた左耳から血を流す、無残な姿で小銃を杖に立ち上がった。
肋骨の数本、足骨の何処かが折れたか。 不思議と、ルートヴィッヒの心の中に恐怖は無かった。 口に広がる鉄の味すら覆い隠す、くどくしつこいカフェオレの人工甘味が、辛く苦しい戦いの後に嘗ての戦友達と呷る思い出の味が、彼の全身を駆け巡るアドレナリン作用を増大させていた。
「全く情けない、情けないぞルートヴィッヒ! この無様な姿で、彼等の元に帰れるか? 帰れるものか!
目の前の魔女を倒し、俺は俺の日常を、一年前の輝きを、」
発火音。 失われた左腕の袖を焼き放たれる黄金の雷光が、鳳凰の翼の如く暗い世界に広がった。
「―四年前の、兄さんとの契約を、俺は完遂する為に戻って来た!」
淫靡な表情を崩さぬ、唸る闇を纏う太陽の水子魔女。 ファイティングポーズと共に、黄金の燐光をたなびかせる黄金の魔法少年。 【デッド・オア・アライブ(生死不問)】の戦いは再び幕を開けた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話 作家名:靴ベラジカ