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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話

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 アーサー邸、ウォークインクローゼットの中、おぞましきクローン人間少女の遺体を目撃した魔法少年と戦犯妖精。 彼等の脳に、奇妙で確定的なニューロンへのハッキング、幼い子供の様な声が響いた。
 『魔法少女と同様に、人間の若い男性が僕達インキュベーターと契約した。 【魔法少年】という存在ですら、イレギュラー中のイレギュラーだと言うのに。 まさか、アーサー・カークランド。 彼が同じ人間のフェリクスを誘導し、第三者が一個体の願いの内容に干渉するとはね。 実に面白いデータが採取出来たよ』
虫唾が走る不気味で無感情、硬質で狡猾な語り口。 ギルべぇは背後の存在、白い猫の様な生物、妖精、
 …本来の姿のインキュベーターに吐き捨てた。
 「キュゥべぇ、なんで、お前がいやがる」
 『居るも何も。 元々この町は隣の見滝原、あすなろ市… 僕の活動圏ギリギリの範囲内じゃないか。 最も、君以外のインキュベーターの活動範囲の、【正しく隙間に収まる座標】であった為に、君の発見も予想以上に遅れてしまった訳だけれど。 このときわ町に置ける魔法少女、いや、【魔法少年システム】独特の進化の歴史はとても観察していて興味深いものだったよ』
嫌悪感を煽る全能感、観測者気分の言語選択。 人型をした銀髪の妖精は不快感を露わに同族を睨み付ける。
 インキュベーターの表情に変化は無い。 ぬいぐるみの目玉染みた赤い瞳が不気味に煌めく。
 『君も、何もルートヴィッヒの願い通りに【人間の姿になる】事は無かったんじゃないのかい。
 まあ気にしなくてもいいよ。 君は素晴らしいサンプルとデータを蓄積したアカシック・レコードとして母星に帰還し、契約相手に譲歩が過ぎる深刻なバグも、深刻な精神疾患も完璧に治療される。 大型アップデートを経た更新型のインキュベーター、第一号として宇宙の熱的死防止に大いに貢献できるだろうしね』

 マッピング完了のアラートが隣、魔術部室マザーコンピューターから喧しく鳴り渡る。
ギルべぇが固めた拳をぶちかまそうとした刹那。 オートマトン染みて藍の魔法少年はインキュベーターを塵ゴミの様に摘み上げた。
 「知っていらのはその程度か(知っているのはその程度か)」
 『そうだね。 僕が知る情報は他にあるけれど、君達人間に丁重に説明した所で、意味も内容も全く理解出来ないものばかりだろう』
 「んだか(そうか)」
玩具染みたカラーリングのグリーフシード。 ハルドルは後ろ手に持った人工結界発生装置の頂点を捩りながら押込み、摘み上げたインキュベーターの背面に突き立てた! 魔女結界の展開と真逆の作用、猫型は装置内へ泥水めいて吸収されていく!
 摘んだ右耳から手を離し、人工結界発生装置に掴み変え、少年は冷ややかに視線を滑らせる。
 「献体の数は十分、知識もギルべぇど同じ(献体の数は十分、知識もギルべぇと同じ)。 だば、なはもう用済みだ(なら、お前はもう用済みだ)」
 『わけがわからないよ。 なんだ、これは。 僕を何処に吸収しようとしているんだ。 ブラックホールにでも閉じ込めるつもりかい…』
 「その方がましだの(その方がましだな)」
人工結界発生装置の中に吸収され、インキュベーターの声は完全に聞こえなくなった。 マッピング作業完了の文字列にtrueの返答をタイピングし、完全に隻腕の魔法少年が視界から消えた映像を元のサイズにデジタル縮小、最後にハルドルは―
 エクスポートされていた【incubator】なる拡張子不明の膨大な容量のデータを完全消去し、再び土足で部屋を出た。
 異常巨大砲身傍の特殊ゴーグルを装着し、首に引掛けられた防音ヘッドホンを付ける様、恐れ慄くギルべぇに無言で指図しながら。