魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話
猛威を揮っていた不死鳥の魔女数匹が、藍を帯びた圧倒質量砲弾に纏めて粉砕されては墜落していく。
オーナーの消え失せた自動車や自転車が不揃いに停車したまま、事故を起こした一部が轟々と炎と煙を上げる光景が見える、時間の止まった様なときわ中心街の空の下。
弱り果て出力の減衰した赤黒。 扉が外れ傍に叩きつけられているランドマーク非常階段の傍に、左脇下に反射する、不安定に点滅する柘榴を庇い立て、イオンは抱えていたトーリスを下ろしてやった。 魔女との数連戦に耐え切れず、やむなく回収した井桁のグリーフシードを使い浄化を施したが、魔女の卵の限界ギリギリまで穢れを孕ませる訳にも行かず、どのグリーフシードでも完全復帰とは行かなかった。 自由自在に飛び回り、相手の隙を伺う彼の戦い方は元々魔法力の燃費もあまり良いとは言えない。 徐々に僅かな穢れを溜め込んでいった柘榴色のソウルジェムは八割型濁りが浮かび、もう飛行を続ける余力は残っていなかった。
「トモダチが、いたんだろ? ほら、行きなよ。 行かなきゃ… きっと一生、後悔するよ」
「でも、でもお前は」
柘榴の魔法少年は変身を解き、ガラス張りの地上階外壁へ崩れる様に寄り掛かる。 皮のめくれた背中から、真紅が鮮やかな水彩インクの様に強化ガラスを濡らした。 イオンは血塗れの手でスラックスの右ポケットからスマートフォンを取り出し、覚束無い手元で単純な操作ミスを連発しながらも、ショートカット登録されたアドレスへ救援信号を打ち込む。 覇気の失われたおぼろげに開く目元。
「大丈夫、いや、全然大丈夫じゃない、けど。 今の様で無茶しようなんて、おいらも思わないから」
「…分かった、分かった行くよ、だから待ってて、生きて待っててよ!」
蝶番のもげた非常階段入口でトーリスは振り向き、二百メートル上の展望台上を仰ぎ、真新しく土埃の剥げた三つの足跡を一目見、魔法を持たぬマギクスワナビは階段を駆け上った。
遠くなる金属音。 極寒地で睡魔に襲われる遭難者染みて意識の朦朧とした柘榴の魔法少年は、スマートフォンに最も新しく保存されたテキストファイルを開いた。 自身より遥かに腕利きであった魔法少年が最後に残した謎のテキストファイル。 このデータを選んだ意味など無い。 気をしっかり保て。 気を失えば死ぬ。
イオンは自分に言い聞かせ、随筆調で記述された、間隔の大分開いた日記の様な文章を寝惚けた様な眼で凝視し、やがて朗読した。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話 作家名:靴ベラジカ