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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話

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 『今日は一体何匹の魔女を倒したものだろうか。 成果は芳しくない。 結論を先に言えば、アタリを引いたのはただの一つのみであった。 コーヒー代を出していたら、我輩と妹共々飢え死にし、死体となって月末にも紙面の片隅を騒がせていたかも判らない。 ローデリヒ、済まない事をした』

 フィラメントが切れかかった琥珀色が、断続的に帯を残す。 琥珀の魔法少女は不幸を分かつ祈りを掲げ、自らの幸福を祈ったライラックの魔法少年の死を悼み、傷塗れの身体を引き摺り、真上を旋回する猛禽魔女目掛け、巨大な切っ先を投げ飛ばした。 暗雲の下で花開く琥珀の花火。 換えの利かない最後の一振りを構築し、目前の魔女を切り上げ切り下ろし袈裟切りし逆に薙ぎ、決死の斬撃を揮い続けた。

 『…我輩は知らずとも好かった事を知ってしまったのかも知れない。 あの男は、魔法少年十字軍を裏切っていたのだ。 何の為かは見当もつかん。 これでは、十字軍の子供達をアレクサンドリアで売り払った奴隷商人と同じではないか―』

 丘一帯を震えさせる轟音。 巨大な藍が精密に魔女と魔女の重なる線を穿ち、悪しく悲しい魔性の群れを確実に減らしていく。 藍の魔法少年は貧しき家庭に育ち、ギャンブルに興じる父の帰りを待ち望み、母を振り向かせ失った愛を取り戻す為に、初めは資金が足らず手に入らぬ家庭用品を自らの手で作り出す為に、全てを生み出す原初の力を祈った。
 銀髪の妖精はその様が羨ましかった。 判り切った画一を繰り返す同族と違い、あらゆる全てを地道に生み出し、失敗を幾度となく繰り返した揚句に一つ一つを発明していき、世界を徐々に作り上げていった人間が、人間の歴史が、恐ろしいほどに尊くて、眩しくてたまらなかった。

 『我輩はただの傭兵だ。 当てもなく彷徨い、命を金で切り売りするただの野生の雁の一羽に過ぎん。 淀んだ気持ちが晴れぬ。 明かりの一つ無く手の入らぬ夜半の森に擲たれた様な、筆舌に尽くし難い、心の靄が取れぬ不安が入り混じる気持である事は確かだ。 遂に、数少ないグリーフシードを使い果たしてしまった。 他人を裏切り死に追い遣ったからとて、彼を殺める権利が我輩の何処にあると言うのだろうか』

 草色が爆ぜ、薙ぎ、蹂躙する。 草色の魔法少年が捧げた祈り、無二の友を蘇らせたいと言う祈りの為に、今正しく無表情に怯え近づく者を切り刻む魔女が、命を賭してまで元の姿に戻したかった無二の友が、鋭き祈りに身を焦がし、無辜の市民を襤褸肉に変える速度を増していく。 
 自分は何をしているのか。 何故自然の理に反し生き返らせたいとまで願った、優しく頼っていた人を痛めつけているのか。 誰にも届かぬ悲鳴を幾度と上げる内、草色は脚や腹を狙いから外し、薄紅混じりの黒に覆われた、嘗ての桜の魔法少年が祈りの宝石を宿した、右手甲に狙いを定めた。

 『何者に宛てるでもなく、傍らの妹に語りかけるでもなく。 この、我輩が書き記した備忘録にも似た、胸裏を吐露しややこしく混ざった思いを纏め上げただけの、拙く下らぬ文章を読む者が、世界の何処かにはいると言うのだろうか。 己の不運、己の不幸を押し付け、屑肉を漁る虻蚊の様に我々の幸福を望んだ、四年前の決断は間違っていたのやも知れない。 地球の真裏で我輩が受けるべき罰を被り、どうにもならぬ不運を嘆く者が居なかったとも断ぜられぬ。 両親、親類の多くを失ったあの瓦礫の下で、我輩も何の事は無い、有触れた十年の人生に幕を下ろすべきだったかも知れない。 そうしていれば、職も無く学も無く、命惜しい同族相手の阿漕な商売に手を染める事も無く、何処の記録にも残らぬ一般人その他諸々として幸せに人生を終えていたとも判らん』

 長く体を蝕む、治療の見込みが無い重い白血病。 持って三か月と診断された翌日が、柘榴の魔法少年が初めに祈りの宝石を輝かせた、魔法少年生活最初の日となった。 奇跡的に完治し、自由に動き自由に大空を舞う事の出来る自由な世界。 彼の人生はその日より、毎日の一分一秒が何物にも代えがたい眩い一条の光となった。
 読んでいて決して面白くは無い、しかし胸を打たれる事の葉に全てを委ね、消えかかる命の灯を覚束無い意識を必死に揺り動かして守り続けている、この瞬間でさえも。