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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話

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 悪魔の竈の様に血飛沫が点々と散り、淀んだ空を人の脚を持った異常巨大の魔女が飛び交うときわランドマーク地上の傍。 脈動を続ける血濡れの瓶を背中に抱え、草色のジェムを爛々と輝かせ、魔物染みた笑顔でアーサーは眩しいほどに輝かしい思い出を胸に高々に笑う。

 「アハ、アハアハハッハハハ…! キク!」
彼の目前に動くのは菊ではない。 菊の体内で誕生した魔女… 剣劇の水子魔女だ。 視線の定まらぬ苦痛が張り付いた面持ちを一分とも変えず、水子魔女はアーサーを視界中央に収めた。 
 魔女には魔法少年や魔法少女であった頃… 生前の記憶などない。 単なる動物的な異物の察知を経た反応の一環。 しかし今のアーサーには、魔女化した親友が遂に命を吹き返し、自分の問い掛けに答えたかのように見えている。 彼は狂っていた。
 「ああ… そうだキク! 俺はお前に生き返って欲しくて、人間に戻って欲しくて、今の今までお前を、お前の身体を探して来たんだ!」
答えが返る筈も無い。 アーサーは冷たくなっている誰とも知れぬ老人を踏み越え、瓦礫を飛び越え、キクの傍へ決断的に歩んだ。 1年以上も前に見た光景が、まるで数日前かのよう。
 記憶と記憶のあいだを補完するページは邪魔だと言わんばかりに破り捨てられていた。

 「魔女を倒す、魔法少年のチームだぁ?」
連れの口から出た突拍子もない言葉。 深緑が茂る街路樹がざわめく、煌びやかな商業地区外れ。 点灯する安っぽい街灯の下、奇妙な手製お守りを引っ提げ、アーサーは気弱そうな茶髪につい掴みかかりかけた。
 「ヴェ、ヴェェエエぶたないで! 嘘じゃないよ、俺達、人を襲う魔女をやっつけるチームなんだよお!」
はっとしてアーサーは手を止め、フェリシアーノと言うらしい年長者から居心地悪く視線を逸らす。 大柄なルートヴィッヒと名乗る男は態とらしく咳き込み話題を強引に繋ぎ止めた。
 「肝心のチーム名はまだないが、魔女と、魔女の子供である使い魔討伐。 この活動自体は俺達が魔法少年として集う前、単独で戦っていた当時から続けている」
 「アーそうか、いい歳して魔法のステッキ引っ提げ魔法使いごっこかよ、くだらねえな。 キクもこんなのにつるむのは止めろ」
中学生はボサボサ金髪頭を軽く掻き誤魔化しながら、西洋魔術かぶれの携帯ストラップを隠れて外し取る。
 「済みません… 何も無ければ、アーサーさんに言った通り。 今日はお茶にするつもりだったのですが」
真珠に似たフェリシアーノ、桜色の菊、黄金のルートヴィッヒ。 ペアリング染みてそっくりな、しかしあしらわれた宝石の違う銀の指輪を一斉に見る高校生達。
 やけに凝った友情の証。 アーサーはその程度の品かと、しかし悪くないデザインでもあると、顔には出さないが密かに関心もした。 既に日の沈んだ暗がりの中で煌々と輝く三色。 菊一行は右手を全方位にゆっくりと翳し、光の強まる方向へ駆けていく。
 「ヴェー。 危ないから付いてこない方が良いよー!」
全く恐怖を煽らない間の抜けた忠告。 無視しアーサーは菊達を追った。 有名楽団も頻繁に素晴らしい演奏を奏でる巨大コンサートホール。 正面を逸れ人影の無い搬入口側へと青年達は駆けた。 裏口側の壁に刻まれたルーン文字と、見た事もない悪魔的文字列が浮かぶ黒き風穴。 
 菊とフェリシアーノは注視した後飛び込む! アーサーも続かんとしたが、非常階段の最上階、しかも階段屋根の上。 何か可笑しなものが起立している。 特徴的なセーラー襟の様な物がたなびいた。
 「…、人間か?」
 「何だと!?」
後続を守るルートヴィッヒは黄金の粒を撒いて跳躍! アーサーは闇へ飛び込む直前にその様を目撃した。
 風穴の内部は… こんな世界、あり得る筈が無い。 近世の銅板画に描かれた様な質感の黒い布製円筒が幾つも無造作に転がり、多種多様な意匠を施された十字架が無数に突き刺さる。 時折煙の様な水色が伸び古びたページが舞い落ち続ける、正しく異世界。 露骨に嫌悪感を覚える描写の聖人像を背に、… 何とも付かぬ、名伏し難い泥の塊が意志あるかのように蠢いている。 不定形の姿には全く一致しない帽子を被った子供の影。 僅かに残ったカークランド蔵書のどれにも一致しない姿。 理解を拒むアーサーに向かって泥は伸び―
 「アーサーさん!」
桜色を袂から僅かに散らす狩衣風。 神秘的な衣服に身を包み、菊はアーサーを抱え飛び退く! 目配せと共に聖歌隊を思わせる白黒姿のフェリシアーノは化け物の背後から緩慢な三角飛びで緩やかに飛翔し、重々しい教典のページは高速で捲れ空中で花開いた!
 《クローセ・インチェーソ!》
真珠の光沢を帯びた二の方陣が回転、十字を描き… 泥状生物は蒸発し、冒涜的な世界は、漏れ聞こえる華やかなフィナーレに似合わぬ無機質な舞台裏。 コンサートホール裏口に浄化されていく。 完全な夜となったときわ町商業地区に、色とりどりの星と電灯が鮮やかに散らされていた。
 「あまり、強くなくてよかったですね」
鞄から魔術書を引っ張り出していたアーサーは駐車場傍のコンクリにやんわりと下ろされた。 恥辱の余りに乱雑に魔術書を仕舞い込んだが、怪訝に思う者は誰も居ない。
 ルートヴィッヒは、眼鏡のときわ中セーラーの男子生徒を介抱していた。 眼鏡の生徒には首元に黒い盾形の紋章が浮かんでいたが、細部をはっきりと焼き付けるよりも前に紋章は煤の様に散って行く。
 「魔女の口づけを喰らっていたが、もう心配は無いだろう」
 「ヴェー… 俺、全然気付かなかったけど、よかったー」
傍のローファーをさりげなく自然に少年に履かせるフェリシアーノ。 別クラスだった為名前は記憶にないが、理由も無く身勝手の対象になっていた虐められっ子の顔。 こいつの何が危なかったのか見当もつかない。 脳に刻み付けられた、慣れ親しんだオカルト、西洋趣味の知識と適当に継ぎ合わせ、唖然とアーサーは口にする。