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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話

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 「違うし… ルートヴィッヒも、キクセンパイも、フェリシアーノも… アーサーにも俺達にも、アッチ側に、一生魔女と戦う世界に来てほしく、なかったんよ」
新たな井桁のグリーフシードが数個転がる、電波塔がもげたときわランドマーク展望台屋根の上。 血反吐を吐き、猫箱の底面を知るフェリクスは、既に亡き十字軍の聖戦士達の、推測した遺志を呟き続ける。 ジェム汚濁デスパレードの痕跡が白い棺桶を避ける様、雨晒しのざらついた金属床の上に破砕の跡や血の海となって残されていた。 悪魔の如き魔法少年は【新たな殺人機械を産み、自身の攻撃の手段に転用する】為に態と自身のソウルジェムを濁らせ、緋の魔法少年とやり合っては、頃合いになれば唐突に中断し孵化寸前のグリーフシードを投げ入れる。 壮絶で傍迷惑な茶番、お遊びを続けていた。
 フェリクスが自身のソウルジェムを砕き、完全に討ち果たす気が更々無い事を早々に見抜き、イヴァンも緋のソウルジェムには全くの未着手を決め込んでいる。 自身の罪の重さを自覚し、贖罪の為にインキュベーターの振りをする、不運な人間の為に契約を交わす妖精が、不幸にも生み出してしまった、【イミテーション・インキュベーター】の完成形が、今正に破壊の限りを尽くされたこの場に顕在している。 魔女を延々と生み続ける、一魔法少年と断じるのも厳しい永久機関と化した二人。 接近した自身の魔女を倒そうとすれば無色の魔法少年が妨害にかかり、狙った魔女の討伐に成功しようがしまいが、猛烈な負傷を癒す為に、自身のソウルジェムは新たなグリーフシードを生み出してしまう。 退くにも退かれぬ、かと言って攻める意味も全く無い、千日手と指摘する審判員すら居ない、破綻した盤面上。 勝ちも引き分けも負けも無い戦いに、少年の戦意は消えかけていた。

 「ローデリヒは、騙されてたん。 あの時はグリーフシードが… 魔法少年の命に関わる、めっちゃ大事な物なんて知らなかったんよ。 ただ【あいつのトモダチ】の言う通り、訳わからんまんま、十字軍が倒した魔女の落とした、皆が元々持ってた、グリーフシードを隠して、囲い込んで、どっかにやったんだし」
無邪気の中に邪悪を隠そうともしない、淀んだ笑み。 真っ向から対立していながら、如何足掻こうとも絶対に、完全に敵対しない相手が面白うてか、本音を投げ打てる相手が居る幸せからか。 イヴァンは笑っている。
 「それで皆、魔女になってメチャメチャで、後になって死ぬほど後悔なんてさあ。 これがコントじゃないなら、一体世界中の何がコントって言えるのかなあ。 うふふ」

 双方の間合いの外で、奇妙に座り込む敵対者、魔女量産システムの中核達。 ジェムが煌々と輝こうと淀み摩耗した胸中の中で、フェリクスは彼なりの戦いを続けているのだ。 自らのジェムを砕きシステムの破壊に至らないのも、遥か階下の地上で戦う琥珀や柘榴、そしてトーリス、親友の元へ戻る為。 対峙する魔性が知りたがり、尚且つ致命的な攻撃に至らない魔法少年に関する話題を振り続け… イヴァンの興味を惹き、戦場への、新たなる魔女の投下を防ぎ、頭数を確実に減らさせる―
 流血が無くとも、目に見える暴力が無くとも。 これは彼なりの最善の、戦略的な勝利を得る為の戦いに他ならなかった。 一度は教師達に無下にされ、後に【キクセンパイ】が誉め称えた天性の知性が、正しく今この時、弱く儚いフェリクス自身の命を確実に永らえさせている。 胸の内、フェリクスは深く一礼した。