魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話
悲劇の起きた一年前の記憶。 辛くも魔女の二連戦を生き延びる代償に、友人二人と左腕を失い重傷を負ったルートヴィッヒは、遅れてやって来た… いや、親友の頼みを聞き入れ、今日もグリーフシードの回収に現れた所で頼みの真意を漸く知った、罪悪感に苛まれたローデリヒの助けによって裏路地から脱出。 三体目の魔女、魔女化した菊… 【剣劇の魔女】の結界から辛くも逃れた。
(俺が… お前の大事なキクセンパイを生き返らせてやる。 だからお前は、代わりに俺の祈りを叶えろ。 ジェムの濁りを気にせずに、ずっと魔女を倒し続けられる力を。 ギルべぇと契約する対価に願え)
木人が整然と立ち並び、円柱状に障子戸がぐるりと立ち囲む中に、鳥居と畳に突き刺さった長短無数の日本刀が生え揃い、桜色の炎に燃える蓮の花が三つ、空間内を回転し続ける結界最深部。
自身のキクへの好意を、目の前の少年が同一人物に抱く敬意で覆い隠し、アーサーはフェリクスに、自身の魂と既に亡き師への敬意を天秤にかけさせる悪魔の囁きを耳打ちした。 遥か虚空から伸びる巨大でたおやかな二本の腕、剣劇の魔女が大太刀を引き抜き、魔女の掌程も無い小さな魔女候補達を惹き潰そうと居合の構えを取る。
「…わかった」
結界入口から、魔女の親を産む悪魔、死の恐怖から若き命を救い続ける天使。 銀髪の妖精が降り立った。
「俺、お前と、ギルべぇと、契約するし」
危機的状況に妖精は語り口を早め、真剣な面持ちでフェリクスを見る。 揺らぎの無い、決意に満ちた表情。
「―フェリクス・ウカシェヴィチ。 お前はどんな祈りで、ソウルジェムを輝かせる?」
「強化(エンハンス)」
決断的に伸びる妖精の触手。 重々しく、ジャッジ・ガベルの如き轟音と共に振り下ろされる超重量の大太刀。 閉じた目を見開き、フェリクスの若草色の瞳が輝いた。
「皆の祈り、俺は絶対無駄にしないんよ。 俺は【皆の絶望も、魔女の呪いも、ありとあらゆる苦しみを全て受け入れて理解し、学習出来る力が欲しい】! …俺の一生で最後の願い、叶えろし、インキュベーター!」
凄まじい、目が潰れる迄の妖光。 緋の光が剣劇の魔女を眩ませ…
後のイミテーション・インキュベーターの片割れ。
緋の魔法少年、フェリクス・ウカシェヴィチがここに誕生した。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話 作家名:靴ベラジカ