魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話
「でも俺、後悔はしてないんよ。 お陰で生きてる。 トモダチとも会える。 今は今で、満足してるし」
大きく開く紫眼。 威嚇と軽蔑混じりの威圧ではなく、純朴な好奇心に満ちた、真水の様に澄んだ瞳。
「お前の気持ちは… お前がどんな願いと対価に、魔法少年になったのか。 完全にはわからんし。 でもちょっとだけならわかったっつーか。 てか、逆に良く解るし。 周りが判ってくれないのとか、めっちゃ俺もむかつくんよ」
習っていない漢字をノートに書いて叱られ、習っていない筆記体で名前を書いて土下座を強要され。
日本独特の、同調圧力と言う名の押し付け教育の一被害者であった自分。 後のトーリスや菊、エリゼベータのような理解者に出会うまで、難易度の低すぎる退屈なゲームを遊ぶように歯ごたえも無く、ただのルーチンワーク、ただの苦行でしか無かった過去の学園生活が少年の脳を過る。
悪魔のようであった、魔法少年イヴァンの右目に、一粒の滴が浮かんだ。 顎へと零れ落ちて漸く、大柄なソプラニスタは手で拭い自分自身が泣いている事に気付いた。 華奢な手を伸ばし、フェリクスは続ける。
「姉ちゃんが無実だって知ってたなら、皆勘違いするって解ってたなら。 其れは違うって、言えばよかったんじゃね。 周りがウザがっても知らんし。 何度でも何度でもウザがられても、言いまくれば良かったんよ。 もし、信じる奴が一人も居なくたって、お前の気持ちは分かってくれる奴は… きっとどっかに居たと思うし」
金の大杖が大きな手元から転げ落ちる。 白衣の水子魔女は暗い陽光を浴び、拍動染みて下半身を支える黒煙をうねらせる。 社会からも見捨てられた水子魔女は、好きに生き好きに死ぬ。 大都市一つを覆う膨大な呪いを放射したその身体は、肉体こそ変わらずも、明らかに纏う呪いは減じていた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第十一話 作家名:靴ベラジカ