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【タグお題】Zの最期の日

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 手を合わせて拝むと焦らすように爪先を口元にあてるけどそういう場合じゃねえから。さっさと心当たりに当たってくれ。
 そんな時に俺の携帯が鳴った。
「はいザップ。……エマ!元気だったかい?もう機嫌直した?明日?…ああ、ああ、わかった。夜七時に、じゃあ…」
 楽しみにしてる。と言って通話を切る前に横からのびた赤い爪の手に奪われて口の中に返却された。そのまま顎にキレイなアッパー。そういえば女子ボクシングの元チャンピオンとか言ってたっけ。そんな風に見えなくて信じてなかったけど。ふっ飛ばされて床に落ちるまでの時間で思い出した。
「ヒドイッ!明日は誕生日だから予定空けとくって言ってたのに!」
「なんて最低な男なの!」
「もう顔も見たくない!さっさと出て行って!」
 さっきまでの言い争いは何だったのか、手を取り合って罵倒する女たち。仲良く二人暮らしなんかしてるはずだよ。息ピッタリじゃねえか。
 仕方なくレオを担いで部屋から逃げ出した。

 建物の前にあった見慣れた他人のバイクに乗って、持ち主は仕方ないから血法でもって背中に縛り付けた。
 このままでとりあえず事務所に行くのも一つの案だったが、チビにクスリなんかやらせたってことになったらマジでヤバい。命がヤバい。違法薬物自体ご法度で俺自身もイザベラみたいな女と一緒の時に限ってコッソリやってるぐらいだ。それがこんなラリッたガキを連れてったらどうなる。見た目は酔っぱらいだが酒臭くないしバレるのは時間の問題だ。多分まず姐さんにぶっ殺される。二児の母だけあってガキのこととなると一番怖い。それから旦那。俺だって仲間だからぶち殺されるわけじゃないが、レオだって仲間だから心底心配するだろうし場合によっては俺の信頼が地の底まで落ちる。あと執事のギルベルトさんも今度から俺にだけ何もしてくれなくなる可能性がある。わりとどうでもいいとこだと犬女と半魚人。元から俺に優しくないから何も支障はないが多分悪口のバリエーションが増える。百個ぐらい。
 そうやって考えていても始まらないので、とにかく何とかしてくれそうな人に連絡を取ろうと携帯を見た。さっき口に突っ込まれたヤツだ。涎と血にまみれて歯の当たったところを中心にバキバキになっている。電源は入るっぽいけど液晶がチカチカしてまともに表示されない。
「マジかよ……」
 使い物にならない携帯は諦めてレオのポケットから携帯を拝借する。少なくとも武器屋のパトリックの番号ぐらいは入ってるはずだ。武器のことしか興味のねえどうしようもないオッサンだが、その分レオのことで激怒するようなことはないだろう。スリープ状態の携帯のスイッチを入れると暗証番号を要求された。ライブラメンバーは大体そうだが、仲間の名前やアドレスは当然重要な情報だ。売れば俺の借金軽く帳消しぐらいの値になる。だからうっかり落としたり強奪されることを危惧して暗証番号でロックすることになっている。間違えたら中身が真っ白になるやつだ。いざというときに仲間の端末を使うこともあるんで、仕事で使う携帯の暗証番号はメンバー内共通で定期的に変更している。ということは俺はこの暗証番号を知っていなければおかしいはずだが、知らない。何故かというと、前回の暗証番号更新に関する通達があった会議をサボったからだ。後で言われたような覚えもあるが、自分の携帯は使えるもんであんまり真面目に聞いてなかった。
 脳みそをフル回転させても鼻をほじりながら聞いた情報を引き出せるはずもなく、勘で押そうとして、キーに触れるギリギリで諦めた。中身がリセットされたら結局誰にも連絡が取れないことになる。
「クソッ!何かとにかく誰かに相談しねえと…」
 そこでさっきマリマリなんとかって草の名前を書いてもらったレオのメモ帳を思い出した。パラパラめくったときに何か電話番号みたいな数字を見たはずだ。誰だかはわかんねーけど。たまたまレオくんのオトモダチの弱っちい異界人とかで、非力だけど薬物博士だったりする可能性に賭ける価値はある。
「試しにかけてみっか…」
 レオの携帯で。暗証番号がなくても番号を手打ちすれば電話ぐらい掛けられる。ちなみにレオのヤツは特別で旦那にしかメッセージを送れない血界の眷属の諱名入力アプリという非常に用途が限定されたアプリもすぐ起動できるようになっている。
 メモされた番号を打ち込んで通話ボタンを押すと三コールぐらいで出た。
「ウィ、スティーブン」
 ダメだ。ある意味で一番ダメな相手だ。しかもこれ、わざわざ手書きでメモってるってもしかしてプライベート用のヤツじゃねえか。仕事用の携帯は携帯のメモリーに入ってるはずだ。何でコイツ番頭の番号こっそりアナログでメモってんだ。お前番頭の愛人か何かかよ。番頭もプライベートの番号なんか俺は教わってねえのに陰毛チビにだけ過保護かよ。
 速攻で通話を切って携帯の電源自体を落とした。
 連絡できる相手がいないんだから足を使うしかない。電話は出来なかったが頼れそうな男といえば武器屋だ。本人は知らなくても情報を持ってる可能性がある。
 レオのバイクで店に向かうと、扉には固く施錠されていた。臨時休業してる場合じゃねえだろう。今夜は詳細不明だけど何かの作戦が控えてるんだからキリキリ仕事しろ。
 それから個人的な心当たりをしらみつぶしにあたった。昔の女とか、ぶんなぐって以来連絡を取ってない売人野郎の行きつけの店とか。まあ大体が夜の仕事の人間だ。家を訪ねたら寝ぼけ半分の顔でビンタされて蹴りだされたし、店は陽が落ちてから営業のため開いてないし、記憶にある住居はもう引っ越した後だった。
 俺は顔は広いが、それは川のようなもんで、知り合いはすぐ入れ替わって去っていったらもう掴めない。何度修羅場をしてもまだ縁を切らないでくれる女の顔が浮かんで急に会いたくなったが、金を持ってないと会ってくれないんで諦めた。財布はイザベラんちだ。
 植物がありそうな場所にあたりをつけて訪ねて回ったお蔭でどんな見た目のものかは分かったが、そもそも人界のモノじゃなかった。一目見ればわかるようなモンスタープランツだった。同時にその辺に生えてるわけがないってことも理解した。植物のくせに肉食なのだ。人類が闊歩する場所に生えてたら定期的に神隠し騒ぎが起きるだろう。
「ん?なんかそういうヤツ見たことあんな…どこでだ」
 でかい花の内側に無数の歯が生えてて、体温があって動くものにガブッと被りつく。
「あー!あーあーあー!!」
 ある。そういう花を俺は知っている。考えるより先に事務所に向けてハンドルを切った。
 着いた頃には当然打ち合わせは終わって解散している。先にガレージを確認したんで番頭と姐さんがいないのはわかっていた。いてもギルベルトさんと旦那と魚類ぐらいか。魚類は自分の部屋の特注水槽に入ってる可能性が高い。とすると旦那とギルベルトさん。騙されやすい旦那さえ言いくるめてしまえばギルベルトさんは余計な口を挟んだりしないだろう。勝算が見えた。
 コソコソ執務室に入り、誰もいないのを確認して旦那が趣味で世話してる温室に向かった。温室っていうか中はほとんどジャングルだ。色んな植物が所狭しと伸び狂って通路を歩いたって葉っぱの先が身体に当たる。