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甘くて苦い・・・

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バレンタインの日の午前中。

再びメール音が鳴った。


『今日マジでごめん。
 病院行った。インフルじゃなかったけど風邪。
 治ったら埋め合わせする。』

大輝からだった。


『熱まだ高いの?』

と返事をうつ。


『昨日より下がったけど38度くらい。』

結構高い。

うーん、お出かけはもちろん無理だけど、
チョコだけでも渡しに行きたい。

どうせ食べられないかな。

だけど会って顔がみたい。

迷惑かな。

いろいろな思いがめぐったけれど、
ええい、と、すずめはまた走っていた。

昨日作ったフォンダンショコラを持って。


はぁ、はぁ、と息を切らし、
いざ馬村の家まで来たけれど、

家の前まで来ると、

「やっぱり迷惑かも...」と思いなおした。

昨夜お兄さんにも、
お見舞い来なくていい、
って言われたし。

それは暗に、お見舞い来るなって
ことじゃないのかな?


あーやっぱりバカだ、私。帰ろう。

と思って踵を返した途端、

馬村の家の玄関がガチャリ、と開いた。


「あれ?与謝野さん?」

「あ...お兄さん。」

「帰るの?」

「え、来てみたけど、
 やっぱり迷惑かと思って...」

「インフルじゃなかったみたいだけど、
 一応風邪だからさ、与謝野さんに
 移ったらいけないと思って。」

「あ、私、体は丈夫です。」

熱はよく出すけど。

「そ?今大輝寝てるけど、あがってく?
 俺、ちょっと大学戻らなきゃなんだ。」

「え、寝てる時にお邪魔するのは...」

「大丈夫。高熱で体力奪われてるから、
 大輝も与謝野さん襲えないと思うし。」

「え!///」

クスクスと大志が冗談を言うが笑えない。


「冗談だよ。大地は避難して祖母の家だし、
 親父は仕事でいないし、与謝野さんが
 側にいてくれると助かる。」

「何にもできないですけど。」

「そばにいるだけでいいんだよ。
 じゃあ、頼むね。」


そう言って大志は大学へと戻って行った。


「お、おじゃましまーす。」


馬村の部屋に入ると、
スゥスゥと寝息を立てて、馬村が寝ていた。

薬が効いているのか、汗をかいていた。

横に置いてあったタオルで汗をふいてやる。

「ん...」

ビクッ!!

馬村が急に寝返りを打ったので
すずめはビックリした。

ちょっと顔が赤い。

おでこに手をやると、すごく熱かった。

「しんどそう...」


せっかく作ったチョコを渡せなくて残念、
という気持ちでここに来てしまったけれど、

馬村の苦しそうな姿を見ると、
「また作ればいいだけだったのに」
という自責の気持ちになってしまった。

「早くよくなってね。」


自分には何もできそうになかったので、
そう言って、すずめはベッドの横に
フォンダンショコラの包みを置いて、
家に帰ろうとした。


とすると、腕をぐいっと引っ張られた。

作品名:甘くて苦い・・・ 作家名:りんりん