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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話

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 窓から光芒を散らす一室。 血の海に沈む冷たくなった両親。 ピクリともしない弟。 家族円満の真偽も分からぬ験を担ぎ父が買って来たスペイン土産の純銀が、アントーニョが持つ血みどろのナイフが、未必の正しく無意識下の家族殺しの凶器に他ならなかった。
 自分が、自分が、他ならぬ罪人だ。 罪人は生きてはいけないのだ。 死ななければ。 この罪深い思考の巡る頭と身体を神の元に断罪し、地獄へこの身を落とさなければ。
 坂を滑り走るブレーキの無い自転車の如くラテン系中学生の思考は混線し淀み、銀の切っ先が僅かに喉元に刺さり、赤い小さな一粒を落とす。 奇妙なローブを纏う友人の姿、伸びる華奢な手も意識の外に追い遣られ―
 《レ・シントニア!》
イタリア系の単語と共にアントーニョの混濁した意識は篩い掛けされ、気付けば彼の親友、ローデリヒに両肩を信じられない程の力で痛いほど抱き締められ、血脂に塗れた純銀のナイフは奪い取られていた。

 「このっ… この、お馬鹿さんが!」
感じた事の無い、激情で燻った吐息を肌身に感じた。 親友は、泣いている。 心の底から泣いている。
 見えずとも、破裂しそうな拍で打ち鳴れる鼓動が教えてくれた。
 「私が、私が… なんとかします。 なんとか、します、から」
視界の隅で、親友の左掌に張り付いた、ライラック色に輝く宝飾品が僅かに見えた。

 ライラックの輝きを見せた、ローデリヒのソウルジェムを最後に見た時にはもう親友は命尽きており、傍で最早完全な姿も無く、輝きを失った炭の様な硬質な破片がダイニングテーブルの上に幾つか転がり落ちていた。
 『一年前のときわ町一家殺人事件の犯人は、私、ローデリヒ・エーデルシュタインです。 今まで隠し通してきましたが、もう限界です。 自らの死を持って、犯した罪を償います』
アントーニョの手から奪われた無意識殺人の凶器。 カリエド家の宝、少年達の歪でおぞましく切ない絆、大きな秘密の一つを守って来た忌まわしき純銀。
 厳格な意匠で飾られたナイフが穿つ二度と輝かぬソウルジェムの傍、ほんの短い文章が遺された、小さな遺書と言えるカードが一枚置かれていた。
 アントーニョは涙を禁じ得ず、心の底から泣いた。 親友が、死んだ。
 自らの罪を肩代わりし、重大な罪を無かった事にする小さなシュレディンガーの猫箱を、奇跡の欠片を遺して無実の罪を望んで着飾ったまま、自らこの世を去り、死んでしまった。
 魔女がいなければ、魔法少年がいなければ。 自分が魔女の呪いを受ける事も、望まずとは言え自らの両親を殺め弟と生き別れる大罪を犯す事も。
 そして、親友が自分を庇う為に、こうして悲惨な形で短い人生を終える事も無かったのに。
 荒み切って尚、魔法少年として生き続けた、深緑の魔法少年の心の拠り所が。 同族殺しを続ける彼を、ギリギリまで魔法少年たらしめ続けた、最低限で最後のタガが、外れてしまった。

 監禁部屋から金属の軋む音が僅かに漏れる。 傍のボールペンを手に、遺書のカードを裏返し、飾り気一つない上品でまっさらな面に―
 『指示する三つのグリーフシードを母体の魔法少年に埋め込んで、町中に撒いたグリーフシードを孵化させろ。 十字架、二重剣標、巴。
 この三つはグランドピアノの底面、ベルベットの宝石箱に隠されている。 対応する奴はその中に、現物と共に顔写真が入っている筈だ。 苗床の死体は用意させておく、ときわランドマークタワー展望台屋上に行け』
 走り書きで残し、アントーニョは、いや、【魔法少年宗教裁判長】兼【狂気の異端審問官】はリビングダイニングを、親友亡き邸宅を立ち去った。 この身が力尽きるまで、ありったけの魔法少年と魔法少女を道連れにしてやる。 あのいけ好かないゲジ眉が言う所の
 【人の姿をした魔女】を生み出し、全ての魔法少年達を絶望の淵に立たせてやる―