魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話
そうして彼が生み出した急拵えの地獄の釜の淵に、今は他でもないアントーニョ自身が立っていた。 冷笑混じりに覗いたおぞましい死と絶望が渦巻く穢れた釜の奥底、決して心の闇に屈せぬ四つの翠が煌々と輝き、この世を生ける呪いに屈した深緑の異端審問官を、その背後で処刑人の様を悲しく見届ける、過去の親友と自分自身を、強い眼差しを持ってずっと力強く見つめている。 少年は慄いた。 緑色のジェムの怪物は、ただ震えた。
「ほんまや。 俺まるで、魔女やんな」
右の拳鍔と一体化した深緑は淀み切っていた。 そこに転がる、悪魔の様な大柄のソプラニスタ。 遠目の純白の中で今も静かに眠る少女。
悪魔の様な所業をした所で、彼は人間、魔法少年だった。 彼女は奇跡を祈った魔法少女であった。 彼を殺し、彼女を弔いもしなかった罪。 そして、目の前の二人… 魔法少年と魔法無き人間を、嘗ての自分と親友二人と同じ運命を強いようとしたが故の… 罪から産まれた天の罰。
最早どうでもよかった。 どうでもよくなった。 罪深いと嘲り見下していた存在よりも遥かに、そして最も、彼自身。 アントーニョ・フェルナンデス・カリエドこそが魔女だったのだ。 何よりも外道でおぞましい悪魔であったのだ。 魔女の様な魔法少年に、柔らかく決断的に、トーリスは告げた。
「魔女みたいだって何だっていい。 お前は人間だよ。
泣いて笑って苦しんで喜ぶ、人間だろ。
もう帰ろう。 魔女も魔法も無い、人間の世界に、日常の、いつもの町に帰ろうよ。
もしかしたらお前は捕まるかも知れないけど。 生きてるんだ。 明けない夜なんかない。
ベッドで目を閉じて、何時間かして目が覚めれば… 明日は、朝はお前の所にも、絶対にやってくるよ」
アントーニョの目は潤んでいた。 満身創痍の身体を折り曲げながらも千鳥足で後退り、濁り切った深緑を、自身の反魔法の力、魔女を狩る為の力と信じて疑わなかった魔法の源を、燻り煤けた魂を掲げ―。
晴れやかに澄み渡った緑眼を穏やかに開き、朗らかな笑みを微かに浮かべた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話 作家名:靴ベラジカ