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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話

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 消火の手も間に合わず燃え上がる商業ビル。 時折コンクリートが剥がれ落ち、血の海となった中心街の只中、スクランブル交差点の中央に太刀が突き刺さる異様な光景。
濃い影と強い光が人気のない交差点に流れる中、無感情に整列した信号機達が点滅を繰り返している。

 取り繕っていたものを失い、恐ろしい物をただ無碍に振り払わんとする無様で悲痛な姿。 アーサーはただ泣いていた。 引掻き傷を幾つも負いながらも、啜り泣きながら、苦しみもがく嘗ての親友を楽にしてやる事しか、目の前でのたうつ剣劇の水子魔女、菊を安らかに眠らせる方法は無いと気付いていた。
 心を鬼にし乱暴に掴んだ親友の左腕に、虐待の名残か自殺未遂か、リストカットの古傷が大量に残っていた様を見、左手首を自由な親指で撫でながら。 草色の魔法少年は咽び泣いた。

 「許してくれ、なんて言わねえ! 言えるわけねえだろ!? お前に、また酷い目に負わせようとした、最低で馬鹿な俺を、どうしようもない屑で不良野郎の俺を、詰ってくれ、蔑んでくれ! 何でもいい、内容なんて何でもいい! 何だっていいんだ! 俺を、 …俺に、答えてくれ、応えてくれよ、キク、キク…」

 少年の口から出たのはそれだけだった。 水子魔女には、それしかしなかった。 張り付く恐怖に、無感情に震え怯える魔女の癇癪も、首、両腕、胴に顔、アーサーは黙して受け止めた。
卵を手に取る様に握られた他意に塗れた魔法少年の左手を、剣劇の水子魔女はすり抜ける。
 ゲジ眉の裏には自身の首、或いは胴が容易く両断され、無様で醜い死体として転げ落ちる覚悟が固まっていた。 水子魔女は、菊は、何もしなかった。

 「…e382a2e383bce382b5e383bc、e38195e38293」
呪いが渦巻き、黒い宝玉が埋まった右手甲を、菊は、アーサーの目の前に、そっと差し出した。
 その手を握る様に、ずぶ濡れの視界の中、アーサーはそっと、優しく。
 彼の無念、彼の悲しみ、黒き呪いを、草色の魔法で、奇跡で、打ち砕いた。
 本田菊は再び、永い、永い眠りにつく事となった。