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「また亀吉は好きだな。」

すずめは馬村と一緒に帰りながら
プロムの企画のことを伝えた。

学校は自由登校だが、
馬村は受験に必要な科目だけ
真面目に授業に出ている。

すずめはもう単位が足りているが、
馬村や友人達と一緒の高校生活を
少しでも長く送りたくて、
毎日学校に行っている。

授業はほぼ聞いていないが。

カメちゃんのそういうノリを見るのも
あとわずかなんだ。

馬村とこうやって同じ道を歩くのも
あと少し…

気がつくとすずめはそうやって
すぐ感傷に浸ってしまう。

しんみりしていると、
ピン!とデコピンをされた。

「またオマエは。ちゃんと受かるから。
 オレが受かれば学校近いだろ?」

そうだ。
馬村の志望校近くの専門学校に通ったので、
卒業してもまたすぐ会える。

「うん。受かったらお祝いするね。」

「へぇ、何してくれんだよ?」

「え?えーっと。」

「考えてないのに言ったのか。」

「今から考えるから!」

言ったはいいが、
すずめはすぐには
何も思いつかなかった。

「まぁ、近くにいられるだけで
 ご褒美みたいなもんだけどな。」

進学を機に遠距離になってしまう
カップルも多い。

それに比べたら会いやすい。

もちろん馬村が受かればの話だけど。

「あ、そうだ。これ。」

すずめが馬村に差し出したのは、
いびつな五角形の袋だった。

「何だ?これ。」

「えーっと、お守り?」

「勉強の?オマエが作ったの?」

「うん。ちょっと形は悪いですが…
 これ五角形なんだよ。合格ってね。」

「ダジャレか。」

そうツッコミながらも、
馬村は思いもよらないものを差し出されて
立ったまま動かなくなった。

「馬村?」

あまりに不細工すぎて絶句した?

馬村がなかなか受け取ってくれないので
すずめが馬村の顔を見上げると、
ふいにギュッと抱き寄せられた。

「わっ!?」

「……」

「馬村?」

「離れたくねぇ…」

「えっ?」

「卒業したくねえな。」

「うん…」

すずめも馬村の背中に手を回し、
ぎゅっと制服を掴んだ。

あ、また石けんの匂い…

「でも会うよね?」

「当たり前だろ?」

「わたし、ここに転校して、
 馬村に会えてよかったよ。
 高校がすごく楽しかった。
 ありがとうね。それから…」

「?それから?」

「これからもよろしくお願いします。」

「うん。よろしくお願いします。」

少し体を離して、
お互いの顔を見合わせて笑った。

「オレ これから予備校だから。
 付き合ってやれなくてごめん。」

「その代わり合格したら
 いっぱい付き合ってね?」

二人でいるためには
少しの我慢は必要で。

「じゃあな。」

そう言って別れ、すずめを見送ったあと、
馬村は手に握った、
すずめお手製のお守りにキスをした。

「試験までは我慢だな…」

そう言いながら。

作品名:ファーストステップ 作家名:りんりん