ファーストステップ
どこからか借りてきた
カラオケマシーンで歌う者あり、
踊る者あり、喋る者ありで
受験が終わった解放感もあって
皆盛り上がっていた。
すずめは場所を提供してもらったこともあり、
諭吉の料理を運ぶ手伝いをしていた。
「オレも手伝うから
オマエも座って食え。」
馬村に食べ物を口に入れられ、
ソファに座らされた。
「んぐ。モグモグ…まむら、ありがとう。」
そこへ向こうから、
わーっという歓声が聞こえて
皆がそちらを向いた。
するとマイクを持った少年が、
少し赤い顔で喋り出した。
『矢田さん!』
マイクでクラスメートの矢田の名前を呼ぶ。
周りは、行けー!と大騒ぎだ。
「は?へ?わたし?」
矢田は食べるのをやめて振り向く。
『ずっと前から好きでした!
卒業しても会ってください!
よろしくお願いします!』
みんな、口々に
わーっ!ヒューッ!とはやし立てる。
「えっあっウソ?」
矢田はちょっと困っている。
カメがそんな矢田に助け船を出す。
『矢田さん、気にせず
フる時はフっちゃいなー。』
「えっあっ…ごめんなさい。」
『はーい!残念でしたーっ!
大学でまた新たな出会いを
見つけてくださーい。』
『はい!他に最後の思い出に
告りたい人~!』
「はい、俺俺!ゆゆかちゃんに!」
「はあっ?!」
ゆゆかがすごいめんどくさそうな顔をする。
「えっ!俺も!告りたい!」
「僕も!」「じゃあ俺も…」
次々に名乗り出るクラスメート。
『おおっと、さすがゆゆか!
入れ食いで四人だーっ!
どうする?ゆゆか?』
「は?勘弁してよ!
そんなんされても困るわよ。
だいたい、じゃあって何よ。
バカにしてんの?」
『はい、残ネーン!一蹴です。
さすが我が校一のモテ女。
毒を吐いてもどこかみんな嬉しそう!
はい、次いませんかー?』
「じゃあ、次、俺。」
『…じゃあ、はい、そこの鉄人28号。』
最後に名乗り出たのは猿丸だった。
カメは嫌な予感がした。
「ちょっとマイク貸せよ。」
猿丸はカメのマイクを横取りして言った。
『亀吉奈々ーーーーぁっ!
好きだーーーーー!
いい加減、返事聞かせろぉっ!』
えーーっ!そうだったのー?
周囲のクラスメートは沸き立った。
カメは真っ赤になって固まった。
奇しくもここは諭吉のカフェである。
憧れのイケおじか、気の合う同級生か。
「カメ、自分の企画で墓穴掘ったわね。」
ツルがこの大騒ぎを見て冷ややかに言った。
「で、どうなの?カメは。」
「だって私はイケおじが…」
「じゃあ、猿丸とは付き合わないのね?」
ツルに聞かれて、カメは口をつぐむ。
辺りがシン…として、猿丸がもう一度聞く。
『亀吉、マジで好きだから。
俺と付き合ってください。』
「~~~ごめん!やっぱ友達で!」
カメは結局猿丸をフッてしまった。
『わーーーっマジかよ!
くそー。フラれた野郎ども!
今日は飲むぞー!』
半泣きで猿丸がジュースを一気飲みする。
「アイツ酔ってないよな?」
馬村が珍しく猿丸の心配をした。
「お酒は出てないはずだけど。」
結局一組もカップルが成立することなく、
ほんとに想い出作りのプロムになってしまった。
みんなで後片付けをして、
じゃあまた何年か後に同窓会しようぜ、
と約束して、本当のお別れとなった。
すずめはまた泣き出した。
すると他の女子も泣き出して、
「みんな元気でねぇっ」と
女子同士で抱き合った。
ゆゆかは、
「アンタのおかげでまぁまぁ楽しかったわよ。」
とすずめに言った。
「まっアンタとはこれで最後でもないし、
またゆっくり泊まりにでも行くから。」
「うんっ!」
泣いたり笑ったりした
高校生活が終わってしまった。
これからまたそれぞれが
違う新しいステージに立つ。
この先何があっても、
高校生活のほうがよかったな、戻りたいな、ではなく、
あれがあったから今の自分がいる、
と思えるように進んで欲しい。
獅子尾が卒業式で言った、
初めて先生らしいと思った言葉だった。
みんなプロムを最後に、
ちゃんと前に進む気持ちを
強くしたようだった。
お別れの言葉を口々にして
本当の解散をした。