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靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 最終話「ゼア・イズ・ブライト」

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 フェリクスの肉体は目立った外傷もない心停止の状態で発見され、息子の死を聞き付けた両親達の希望もありスーパーセルの犠牲者と共に合同葬儀が執り行われた。 交流の無かったクラスメイト達と共にその死を悼まれ、トーリスの親友は戸籍からも既に抹殺され、社会的には死を迎えていた。
 慰霊碑に刻まれた、フェリクス・ウカシェヴィチの名。 それでも、彼の瞳は悲嘆に暮れる事は無かった。
 「…そんな所かな」
目を見開いた赤ドレスシャツは不安定な苦笑いを浮かべていた。 五年前に見た、希望を失った魔法少年の暗い瞳に似通った、唯周りの光を受けてかりを発するだけの、濁った宝石の様なペリドット色が、奥深くの無気力な道程を隠し切れずに、相対する茶髪ボブに想像させるだけの余地を残していた。 言葉を詰まらせる褐色。トーリスは聞き入れた。 あの日から彼はずっと、一つの制約を自らに課していたからだ。

 少しでも、ちょっとだけでも、苦しむ人を見かけたら、絶対に手を差し伸べる。 フェリクス達が、自分を救ってくれた魔法少年十字軍が。 社会に認められる事もない現実世界の裏側でずっと、ときわ町を守っていた第一次魔法少年十字軍が。 実際の思索はどうあれ、呪いを振り撒く魔女を倒して来た魔法少年少女達が、ずっとそうして来たように。 それは彼なりの、数え切れない死者達へ手向ける祈りであった。
 電子的混線染みて気力を奪う蝉の鳴き声と、壊れた様に悲嘆を繰り返す遺族達の侘しい悲鳴から、目の前の青年が送信する、宛ての無いメールの様な、微弱な助けの声を真剣に受信し掬いあげる。
 「―死んだ兄貴は… お仲間の仏さん、スーパーセルにやられた、どっかのあんちゃんにナイフ。
 ぶっ刺しとったらしくてな」
人工芝の上でもじりじりと感じる猛烈な熱気。 アントーニョの弟は焼ける様なベンチにへたり込むように座り込んだ。 トーリスも続く。 責められるべき加害者も、救い出し詫びるべき被害者ももう居ない、誰に読ませるつもりもなかった日記の、ほんの一ページのような加害者の告白。
 コンビニ袋から無糖コーヒーを取り出し、褐色の焦げた茶髪はプルタブを抉じ開ける。 ざわめく深緑の木陰が、青年達の伝う汗を受け止めてくれた。
 「その前には、おとんとおかん殺して、俺殺ろうとして、お巡り逃れか、そのままどっか行ってしもて…
 そいでまた、やらかしよったんや。 ホンマモンの悪人やろ」
真夏の日差しがコントラストの強い光と影を地上のキャンバスに落とし込んでいく。 トーリスには強い影に覆い隠された青年の表情は伺えない。 汗がじとつく焦げ茶の髪を、褐色の指が掻き乱す。
 「でも… それから俺らにはけったいな取材も、おっかないメール一個もなかったわ。 人殺しの家族がこないな事ほざくの、まずいかも知れんけど… 正直助かった。
 奇跡かなんかみたいに、俺の生活は殆どそっくり元のまんま。 お陀仏にはならんかったんやから」
アントーニョの弟は開けた缶コーヒーを飲み干していく。 僅かな沈黙。 けたたましい蝉の合唱が耳を素通りし頭を駆け巡る。 トーリスは組んでいた両手を解きほぐした。

 「いいんじゃない? お前が悪い事した訳じゃないんだろ。 皆は、お前が思ってるほど酷い奴じゃないよ。 素直にやりたい事やって、これまで通りに暮らしたって。 罰なんか当たらないよ」
 「ほんまかいな」
 「嘘じゃないよ! ときわランドマークから落ちて助かった俺が言うんだ、奇跡も魔法も、きっとあるさ」
褐色は茶髪ボブの彼に振り向いた。 名も知らぬ深緑の生き写しは、唖然としていた。 こんな事信じて貰える筈が無い。 トーリスの顔に血が上りダラダラと汗が噴き出していく。 アントーニョの弟は噴き出し、けらけらと笑い出した。
 「そ、そうやんな…。 お前みたいなのと出くわしたのも、奇跡かも知れへんな。 とっぽい奇跡やけど」
空のコーヒー缶を横に置き、褐色は目元を拭った。 拭われた跡には涙がぐしゃぐしゃに残っていた。
 「とっぽいけど、 …なんやめっちゃ、気が楽になったわ。 名前も知らんけどあんた、ほんまに聞いてくれてありがと」
ほんの少し、しかし先ほどとは明らかに違う、光を宿したペリドットの瞳。 濃い草色の瞳も輝いた。
 ゴミ箱へ潰されたコーヒー缶が音を立てて吸い込まれる。 惨いほどにこの上なく晴れた酷暑の夏空。 強い光と影の下、彼等はピアノ演奏を奏でる陽気な微笑みでスマートフォンをタイプした。