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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 最終話「ゼア・イズ・ブライト」

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 国立ときわ大学構内空き教室。 【ときわ大魔術部】と大きく書かれた粗末な張り紙のある扉は僅かに開き、室内から… かつての【ときわ中魔術部】部室に居るサークルメンバー達に外部の音響を僅かに伝えている。
 棚に立ち並ぶ奇怪な蛍光緑漬けの標本瓶。 大正浪漫的に西洋と東洋の混じり合う洋館の一室。 巨大サーバーが十基以上は立ち並ぶ伝統と新鋭の不協和音。 円卓の上に奇妙に直立するグリーフシード似の白き宝飾は、近付けられた柘榴色のソウルジェムから僅かに穢れを吸収し、容易く真っ黒に煤けた後霧散してしまった。
 「だァー… また失敗だ」
差し迫る危機は無いが其れなりに穢れを孕んだ柘榴色。 魔術部員達は無数の失敗作を経た今も尚、諦め悪く人工グリーフシードの開発を続けている。
 この浄化速度とキャパシティでは限界まで濁ったジェムを一割も浄化しきれまい。 素直に天然グリーフシードで残る穢れを浄化し、裏地に赤と黒のボーダーが見える黒のスキニー、全面右側のみ赤と黒のタータンチェックに切り替わった奇妙なドレスシャツの裾を握り締め、疲れ切ったイオンは身体を擡げ、腰掛けた洋館的ダイニングチェアの背凭れに凭れかかった。
 「前しりは進歩したぞ(前よりは進歩したぞ)」
シンフォニックメタルの残響が零れるヘッドホンを外し、ノルディッククロスがプリントされたTシャツに薄いカーディガンを羽織るハルドルはビートに身を揺らしながら応答した。
 大型タワータイプにアップデートされたPCには相変わらず藍地に白の文字が無数に浮かんでいる。
 「まー、数揃えりゃ其れなりにはね。 緊急じゃなきゃ使えるかな」
 「んだか、幾つか用意しておぐ(そうか、幾つか用意しておく)」
モニターに向き直る淡い金髪に緩く手を振り赤眼は溜息をついた。 もう一人のメンバーは午前に出て以来まだ戻ってきていない。 ジェム探知装置を見ても異常は見当たらないが、もしやー

 「あいづだば墓参りだぞ(あいつなら墓参りだぞ)」
高速タイピングを始めたエンジニアはざっくばらんに答えビートに身を委ねた。 高級シーリングファンの空調が沈黙に優美な旋回音を齎していた。
 「ハア。 いつまで友達とだべってんだろね。 この炎天下」
冷え切った手製レモネードを汗かきなグラスに注ぎ、八重歯をちらつかせながら金茶髪は一気に飲み干した。 もう一杯に同様に淡い黄金色を注いで同席する技師の傍で軽く揺らす。 魔法技師はグラスを受け取り甘い酸味を一口含んだ。
 若い女と男の声。 不在の主人の部屋と大学空き教室を繋ぐ異世界の扉の隙間から滲み出る。

 《…講義の邪魔だ、消えろ》
 《ちょ、ちょっとま、待ってナターリヤ! 俺もうちょっと話したい事が…》
長いプラチナブロンド、藍と白のエプロンドレスが隙間から見え、後を追う茶髪ボブがそそくさと去っていく。意中の相手を追う見知った青年の駆け出す足音。 魔法無き旧友の叶うとも知れない恋への懸命さが滑稽に映り、不意に魔術部員達は噴き出した。
 「…アハハ! なんか、悩んでるの馬鹿みたい」
 「んだんだ、馬鹿きやし(そうそう、馬鹿らし)… プッ」
タイピング音は止み、グラスの氷は空回りし、青年達は腹を抱えた。 久しく弾け飛ぶ無邪気で他意の無い笑い声が部屋中を支配した。
 レモネード瓶は小型冷蔵庫に戻され、グラスは洗面台に雑に洗われて、灰色ベースのトートを肩に掛けた赤眼は厭らしく歯を剥き出しに笑む。
 「今日ぐらいサボっちゃおうよ。 ゲーセンとか行かない?」
データを保存した巨大タワー型パソコンはシャットダウンする。 落ち着いた青と黄色のバックパックを背負い、眠たげな紫は輝いた。