魔法少年とーりす☆マギカ 最終話「ゼア・イズ・ブライト」
熱気の和らぎかけた夕時前。 僅かに傾いた陽が、整然と並ぶ石造りな死者達の最期の拠り所を美しく、そして悲しげに照らしていた。 日本式の墓前に白い薔薇の花束を捧げ、金髪碧眼ゲジ眉の青年は一人ごちた。 一考の後、無情に転がる桜の枝を拾い上げる。 土を払い青年が軽く撫でると、草色の燐光が枯れ果てた枝を覆い、大きく淡い色を艶めかしく広げて、桜は再び開花した。
かつてあった輝きを、祈りの力によって蘇らせた艶やかな大輪が誇らしげに連なる枝を、アーサーは菊の墓前、花束の傍に捧げた。 テイラードジャケットから覗くチェックのハンカチを引き出し手を拭う。 若草色の瞳に黄金の様な陽の光が差し込んだ。
「俺が一方的に、じゃなく。 俺もお前の悩みを聞いてやれたなら。 こうは、ならなかったのかもな」
口角が苦々しく非対称につり上がる。 身から出た錆だ。 自分が魔女としてでも蘇らせようなどと思わなければ、彼は、キクは。 もっと早く安らかな永い眠りにつく事が出来ていたかもしれない。 五年前の大きな過ちは未だ草色の魔法少年の心に淀みを齎していた。
アーサーは自らの皮肉に嗤った。
涙腺が緩む感覚。 傍の西洋式墓地に其れは居た。 巨大な尾っぽを揺らす銀髪の男、頭部に白猫の様な耳と触手を生やした妖精。 ギルべぇはバラバラに、しかし傍に並び立つ墓前にエーデルワイス、カーネーション、ヤグルマギク、そして向日葵数本ずつを選り分けて捧げていた。
「お? アルトゥールじゃねえの」
「エーデルワイスにカーネーション、ヤグルマギク、それに向日葵…」
右手の指を一本ずつ折り曲げ、ゲジ眉探偵は精巧かつ丁寧に、記憶の中の一ページ一ページと目にした花々の記憶を擦り合わせていき、はっとした。
「全部、俺の花壇にある花じゃねえか」
銀の妖精は無邪気に歯を剥き出し目を閉じて笑った。 涙が滴る寸前で、アーサーの涙腺は硬直し、全身がわなわなと震え出す。
「ケッセセー。 俺様栄誉賞として供え物の花にする権利をやったんだぜ。 花屋で買えねえから」
「勝手に持ってくんじゃねえよばかぁ!」
掴みかかり殴りかかる金髪を、妖精は遊び半分に笑いながら平然と受け止める。 元不良は激昂した。
「畜生! この野郎! いつか絶対お前の星カチコんでやるからな! 天国で待ってろよキク、俺がそっちに行くまでに絶対、インキュベーター共をぶっ潰してやる!」
悲しみの涙は琥珀色の陽光に散っていった。 傍目からも馬鹿馬鹿しい、子供じみた喧嘩ごっこ。
遠くからその様を唖然と見ていた唯一の目撃者。 シックなロングワンピースに身を包む、浅葱色の目をぱっちりと開く金髪の少女は、嘗てときわ町で生き、ときわ町で死んだ魔法と奇跡のワイルドギースと、何処か似た雰囲気を醸し出していた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 最終話「ゼア・イズ・ブライト」 作家名:靴ベラジカ