魔法少年とーりす☆マギカ 最終話「ゼア・イズ・ブライト」
撮影日は六年と半年前の真冬。 写る何処かの繁華街上空に小雪がちらついている。 被写体は―
この上なくどや顔のフェリクス。 彼の華奢な肩にそっと手を置くエリザベータ。 少女の横で柔らかく、しかししなやかに姿勢を正したローデリヒ。
眼鏡の親友の傍、両手を開き太陽の様に晴れやかな面持ちのアントーニョ。 褐色を横目に苦々しく眉根を寄せるアーサー。
ゲジ眉を微笑ましく見守る幼い黒髪ショート。 後頭部を軽く掻き乱しているルートヴィッヒ。 大柄な金髪に見守られ、フェリクスの傍でピースを掲げる茶髪ショート。
個性はあれど、皆揃って笑顔を浮かべていた在りし日の幸せが、白縁画面の中で今も瞬いている。
写真の開いた右上には流暢な筆記体で「Puella Magicus Cruciata(魔法少年十字軍)」と記されていた。
いつしかトーリスの手は震えていた。 薄く文字が書かれている様が透けて見える、繊細な紙質の小さな手紙を、開く。 ほんの少しの文字数、古き友の筆跡で、宛ての無い小さな願いは記されていた。
『変な奴もいるけど、全員良い奴で、皆俺の友達だし。 お前に見せたら絶対ビビるし、まじ受けるわ。 近々紹介してやんよ
―Feliks Lucasiewicz』
いい歳をした青年の、大学生の、トーリスの目から大粒の、生温かい涙が零れた。 あれだけ探しても見つからなかった親友の遺志の一欠けらが、ほんの直ぐ傍にあったのだ。
それが奇跡の様な偶然と共に、今ここに姿を現して漸く見つける事が叶ったのだ。 青年は咽び泣いた。 ただただ泣いた。
ひた隠し張り裂けそうだった想いを弾けさせ、無邪気で何も知らなかったあの頃の様に、思いのままに素直に泣き散らかした。
すぐ傍で、鍵が開く音がした。 玄関の、引きドアノブが稼働する金属音。 軽めのスリッパの足音。 それはやがて、トーリス・ロリナイティスの私室の前へ。 青年が座り込む前、部屋の扉はゆっくりと開いた。
大学生の胸元に柔らかく跳ねる白。 白熊に似た不格好で小さなぬいぐるみが、頼りすがる様に押し付けられた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 最終話「ゼア・イズ・ブライト」 作家名:靴ベラジカ