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桜の幻想 第二話(薄桜鬼 風間×土方)

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頭の中でひたすらに責任転換と自己正当化を繰り返す。

本来ならばそんなことをしている自分が許せないはずなのだが、今はそんな気持ちの余裕
などあるわけもない。

俺に考え事をさせた奴が悪い。

俺の頭を悩ませかき乱した奴が悪い。

…俺を、こんな想いで埋めつくさせた奴が悪い。

故に、悪いのは土方歳三、貴様だ。



「お前、そんなところで何やってやがる」

「…っ!?」



ガバッ、と伏せていた顔を思いっきりあげる。

目の前にいるのは、間違いなく、俺の頭に隙間なく存在している奴。



「またお前ら鬼で何か企んでやがるのか?これは何の計画だ?」

「…貴様に教えてやる義理はない」



落ち着いて、努めて冷静に応答する。

どうやら、何かの計画実行のためにここで待ち伏せしていると思っているらしい。

そんな格好のつく理由ならばどれほど嬉しいことか。



「てめえらがまた良からぬことを考えているなら、なんとしてでも止めなきゃならんな」

「貴様こそ、何故こんなところにいる?」

「巡察だ。訳あって大人数で行動できねぇんだよ」



どんな訳だろう、と一瞬考えたが、そんなことを聞いたことろでこの状況を脱することが
できるわけではない。

気づかれないよう、小さなため息をついた。



「他の二人はどこにいる。近くにいるんだろう?」



二人…。

天霧と不知火のことか。

いるわけがないだろう。



「…いない。俺一人だ」

「一人だぁ?嘘をつくな。お前一人で何をするってんだ」

「企みがあるなんて、俺は一言もいっていない」

「…じゃあ何の目的でここにいる」



つかの間の静寂。

終始、土方の殺気は止まない。

俺は、ハァ、と、今度は聞こえるようにため息をつく。

そして、腹を括って話し出した。



「俺は今日一日暇だった。故に街へ出た。しばらく考え事をしながら歩いていると、気が
つけば大通りから外れた路地に出ていて、道がわからなくなった。そのまま歩き続け、少
し休憩を挟もうと座り込んでいるところに貴様がやってきた。…ただそれだけのことだ」



話し終え、土方の顔を見ると、鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔で固まっていた。



「…今までずっと道に迷ってたのか?」

「端的に言えば…まぁ、そういうことだ」



ため息交じりに答える。

ふと土方に目をやると、口元を押さえ、顔を背け、体を小刻みに震わせていた。



「…何を笑っている」

「ぃゃ…っ…だってよぉ…クククッ…!あの風間が…迷子……ブフッ!」

「迷子と言うな迷子と!俺は子どもではない!」



必死に語る俺がよほどおもしろかったのか、もはや堪えることを諦め、腹を抱えて笑っている。

目には涙が浮かぶほどだ。



「んなに顔を真っ赤にして!風間が!はっはっはっは!」

「…ああもう好きにしろ!笑いたければ勝手に笑っていろ!」



しばらく笑い転げて、ようやく落ち着いたらしい。

まだ息が切れてはいるが。



「いやー笑った笑った。ここまで笑ったのは久しくなかったなぁ」

「………」

「悪かったって。そう拗ねるな」

「拗ねてなどいない!」



わかったわかった、と適当に流す土方。

子ども扱いをされている気分であまりいい気はしない。



「ほら、とっとと行くぞ」

「…何?」

「お前のわかる道まで連れてってやるって言ってんだよ」



正直、驚いた。

まさかこんな展開になるなんて思ってもいなかった。

敵対している奴なんて放っておけばいいものを。



「いいのか?俺は貴様らの敵の値する相手だが」



俺がそう問うと、からかうような、しかし澄み切った笑顔でこちらへ振り向き、



「迷子で困ってる奴に敵も味方もねえよ」



と、言ってのけた。

差し込む夕日を背に振り向いたその姿、その笑顔。

―…綺麗だ。

口には出せない、ましてや本人の前では決して言えないが、何の恥じらいもなく、素直にそう思った俺がいた。





―…ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…。

薄暗く狭い路地に、威圧感漂う男が二人並んで歩いている。

誰がどう見ても滑稽な図だろうと思う。

聞こえるのは二人の足音のみ。

お互いに話し出す様子はない。

不満はないのだが、多少気まずい。

一方の土方は何も思っていないのか、常に変わらぬ表情で黙々と歩き続けている。

さて、どうしたものか。

ふと、隣を歩く男の顔を見てみる。

相変わらず鋭い目をしていた。

誰も寄せ付けない、誰にも頼らない、そんな目だ。

だがその目にいつもよりも幾分の疲れが見える。

目の下には浅黒くクマができていた。

よく見ると顔色もあまり優れていないようだ。

遅くまで仕事でもしているのだろうか。

そんなことを思って見ていると、フッ、と目が合ってしまった。



「何だ、俺の顔に何かついてるか?」

「いや、そうではないが。…お前、ちゃんと睡眠できているのか?」



俺がそう言うと、またか、と小さく不機嫌そうに声を漏らした。



「それ以上は何も言うな。ここ数日うちの幹部連中に口酸っぱく言われ続けてんだよ。…特に、あの強情なおせっかい焼きの小娘にな」

「小娘?…あぁ。…雪村千鶴、か…」



何だかんだで、新選組の鬼副長は誰からも慕われているらしい。

だが、やはりあの女鬼のことを口にされると胸が痛む。

女鬼…と、そこでふと思い出した。

先ほど買った、髪紐の存在。

渡すのならば、今が絶好の機会なのでは。

しかし、どう切り出す?

展開がいきなり過ぎではないだろうか。



「…この辺で大丈夫だろ。ほら、この間お前が歩いていた通りだ」



俺が悩みあぐねている間に到着してしまったらしい。

辺りを見渡すと、そこは髪紐を買ったあの通りだった。



「あぁ、ここまで来ればわかる」



これで帰り道の心配はなくなった。

あとはこの小包をどうするかなのだが。



「ならもういいか。それじゃあ俺は仕事に戻るからな」



俺に考える間も与えずに歩きだして行ってしまう。

よほど急いで仕事に戻りたいのか、さっきの数倍は早足だ。



「っ…待て!」



気がついた時にはそう言っていた。

思いのほか自分の声が大きくて少々焦る。

そして呼び止めていたことに驚いた。

呼び止めたところでどうするつもりなのだ。

何を言えばいいのだろう。



「ん、何だ?まだ何か…」



振り返りながら言葉を紡ごうとしている。

だが、言葉が途切れ、顔が苦痛に歪み、手を額に添えたかと見えたその瞬間。

土方の体が傾いた。

そして俺もまたその瞬間、思考より先に体が動いていた。

―ドサッ

地面に着く前に、何とか土方の体を抱きとめることができた。



「土方っ…おい、土方!」

「…っぅ…。…悪ぃ。もう、大丈夫だ…」



多少ふらつくものの、何とか立ち上がる土方。



「…仕事仕事と無理をするからだ」

「あぁうるせぇうるせぇ。もう大丈夫だっての」



そう言って再び歩き出そうとしている。

明らかに大丈夫な様子ではない。