三つ巴
学校が終って、
大輝が待つ門の前へ急いだ。
「大輝!」
息を切らし、走ってくるすずめを見て
大輝は少しよけた。
「わぁ!」
大輝とぶつからなかったすずめは
よろけて車道に出そうなのを
大輝に捕まえられる。
「オマエはまた!
なんでタックルしようとすんだよ!」
「えっ?ごめん!
大輝の姿が見えたら嬉しくて。
思わず突っ込んでしまった。」
「でも大輝、よけるの上手になったね。」
「タックルされ慣れたからな。」
さすがに付き合いも3年になると
行動パターンが読めてくる。
「とりあえずメシ食いに行くか?」
「やった!うん!」
大輝は前から予約していた
シーフードレストランへ
すずめを連れていった。
今話題の、手づかみで食べるレストランだった。
「え!?ここ?!
大輝、手づかみとか
絶対嫌だって言ってなかったっけ?」
「オマエが来たいって言ってたから。」
「そ、そうだけど。でも大輝、無理してない?」
テレビで観て、行きたいなぁとは言ったけど、
大輝はそれを聞いてすぐに
「手づかみなんて気持ち悪い。」
と言っていたのだ。
「今日はオマエの誕生日だからいいんだよ。」
「いくら誕生日でも、
大輝に我慢させたくないよ?」
「オレがいいって言ってんだから
いいんだよ!ほら、入るぞ。」
大輝はすずめの頭を小突いて
店内に入っていった。
すずめもその後ろからついていく。
テーブルの上に白い紙が敷かれ、
店員さんがその上に、
レモンやライムを盛り付けた。
「ホントに皿がねえ…」
大輝は少し青ざめた。
すずめが喜ぶと思って来てみたが、
実際に目の前でその光景を見ると、
想像以上に抵抗があった。
ビニール袋に入った魚介料理を、
そのライムの上に店員がぶちまける。
マジで?
運ぶ料理すら皿じゃなくて袋?
大輝の目は驚きを隠せなかった。
すずめは大輝の様子が気になって
仕方なかった。
無理してるんじゃないか、
ホントは嫌なんじゃないか、
ずっとドキドキハラハラしていた。
「えっと…大輝?…大丈夫?」
「うん…」
しばらく唖然と料理を見つめていた大輝だが、
手を洗って手にビニールぶくろをつけ、
料理を手にとってみた。
おそるおそる、一口食べる。
「…あ、うまいかも。」
「え?ホント?」
すずめ自身は何のためらいもなく
手づかみで食べ始める。
「あ、美味しい!美味しいね!」
一度食べ始めると調子に乗って、
どんどんとすずめは食べていく。
「ガキん頃の泥遊びを思い出すな。」
「ホントだね!」
「この歳で手づかみで
モノ食うと思わなかった。」
「わたし、これ、結構楽しいんだけど!」
すずめは元々野生的だったので、
水を得た魚のようにイキイキしていた。
「ふ、オマエ似合うな。その姿。」
「大輝はすごく意外だよ。」
「オレ、オマエと付き合い出してから
かなり自分捨てた気がする...」
すずめと付き合っていると、
自分の殻をどんどん割られる、
大輝はそんな気がしていた。
それが自分で戸惑うこともあるが、
嫌じゃないと思う自分もいる。
でもさすがに手づかみは
愛の告白以上に勇気が要ったが。
「インド人ってこれが普通なんだろな。」
大輝はボソッと呟いた。
複雑な家庭環境にあって
女嫌いになったことがあっても、
父親に反抗するということもなく
割と上品に躾られてきた大輝は、
どうみても不躾にうつるこの行為に、
最初のうちは罪悪感を感じていた。
でも食べるうちに
だんだん快感に似たものを覚えて
少し気分がよかった。
「あー美味しかった。」
すずめも大満足だった。
その顔を見れただけでも
大輝には喜びだった。
食事が食事だけでない、
ひと運動のような感じで、
すずめの頬が火照っている。
「ちょっと外歩くか。」
二人は店を出て、
イルミネーションの中を歩き出した。