こらぼでほすと プラント4
空港で出国手続きするのも初めてだ。普段は、ラクスの専用機だから、手続きが略されている。リジェネはヴェーダと行ったり来たりはしているが誰かに見送られることはない。思いついたら行動しているから、わざわざ見送りされるようなことはないからだ。まあ、今回も最後は一緒に帰れないが、それでも楽しいものは楽しい。ニールの腕にしがみついて、楽しさを堪能している。
シャトルは翌日の午後に到着する。十数時間だが、ほとんど寝ているから気楽なものだ。プラントのコロニーのひとつアプリリウスへ入港すると乗客たちは立ち上がる。
「少し座っててください、ママ。俺たちは一番最後に出ます。」
「あ、おう。」
レイが隣りのニールに説明する。いちいち、入国審査とか面倒なので、ここはトダカとシン、レイの実力行使をやることにした。乗客が降りて静かになると搭乗口から人が入って来た。
「こっちだ、ルナマリア。」
「久しぶり、シン、レイ。トダカさん。案内するわ、ついてきて。」
荷物を持った女性が手を振るので、ようやく立ち上がる。搭乗口から出て出口ではない方向に歩き始めた。
「え? どこ行くんだ? シン。こっちじゃないのか? 」
「大丈夫だ、悟空。俺とレイはザフトの人間だし、父さんはオーヴの外交官特権が使えるから、ここじゃない出口に案内してもらうんだ。」
「俺とママとリジェネは? 」
「俺らの随行員ってことでスルーさせてもらう。ちょっと待っててくれ、着替えるからさ。ルナマリア、制服貸せ。」
「ちょっと、シン。ここで着替えるつもり? ちゃんと部屋は確保してるから。トダカさん、こちらで少しお待ちいただけますか? 」
「ああ、わかった。そうだ、紹介しておこう。うちの娘のニールと、その子供のリジェネくん。悟空くんは知ってるね? 」
トダカが声をかけると、ルナマリアが振り向いた。そして、ニールとリジェネに視線を向ける。悟空はルナマリアが特区に遊びに行った時に顔を合わせているから知っている。つかつか、と、二人の眼の前まで来て敬礼した。
「はじめまして、ニールさん、リジェネくん。シンとレイの同僚のルナマリア・ホークです。今回の旅の案内役をさせてもらいます。少し待っててください。」
「ああ、はじめまして。ルナマリアさん。メイリンのおねーさんだろ? メイリンから話は聞いてた。」
「私もメイリンから聞いてました。ほんと美人ですね。シンのおねーさんなので、私も、おねーさまとお呼びしますね? 」
「え、まあ、なんでもいいけど。」
なぜ、みんな、そのおかしな呼称を使うのか、ニールには疑問だが別にいいか、と、頷いておく。シンとレイはルナマリアに案内されて部屋に走っていった。待合ロビーには四人しか居ない。すでに乗客はいなかった。
「トダカさん、何か大事になってんですか? 」
「いいや、一般のアライバルゲートから出ると騒々しいことになるから、別の出口から出るんだよ。その場合、シンとレイがザフトの制服を着ているほうが都合がいいんだ。疲れてないかい? 娘さん。」
「ええ、大丈夫です。ちょっと座りっぱなしでケツが疲れましたが。リジェネは大丈夫か? 」
「うん、大丈夫。でも、なんでトダカさん、外交官特権なんか使えるのさ。一般人でしょ? 」
「一応、資格は持ってるよ。この間、あちらに頼んで登録してもらったんだ。このほうが動き易いんでね。きみらは私の家族ってことになってるから、きみらも一般客じゃなくて同じ扱いをしてくれるんだ。だいたい、アライバルゲートなんて抜けたら、とんでもないことになるんだからさ。」
「とんでもないこと? 」
「大使館の人間が出迎えたり、シンたちの仲間が出迎えたりされると大人数に敬礼されたりする。」
「うわぁー。」
「だから、別の出口に誘導してもらって勝手にホテルまで行こうって算段だ。」
なるほど、と、ニールも頷く。出来る限り、そっとしておいてもらいたいので、それには納得だ。シンとレイがザフトを休職しているのは聞いていた。原隊復帰でなくても、ザフトの人間なら融通はつけられるらしい。すぐに赤い制服になったシンとレイが飛び出してきた。確かに、そういう恰好をしていると軍人に見える。ニールもザフトの軍服については知識がある。これは若手のエリートたちが着る制服だ。イザークもディアッカも赤服だと聞いているから、『吉祥富貴』に所属しているのはエリートばかりということだ。
「どう? 俺の仕事服。赤服はエリートなんだぜ? ねーさん。」
「それは知ってるよ、シン。てか、ルナマリアさんもレイも赤服なんだな。現役の時はエリート部隊だったのか? 」
「そうだよ。ここにいるのは新造艦で最新鋭のMSに乗ってたメンバーなんだ。今はバラバラだけどさ。・・・とりあえずホテルまで行こう。今日はゆっくりしようぜ。」
「そうだな。ルナマリア、車両の手配もしてくれているのか? 」
「もちろんよ、レイ。あ、そうだ。今回は、私、キラ隊の副隊長格で動くから、あんたたちの護衛兼案内役で同道させてもらう。」
「そうか、それじゃあ、キラ隊で動いていいんだな? 」
「もちろんよ。キラさんから指令書が出てるから、好きにしていいって。聞いてる? 」
「聞いている。キラさんからも言われた。その話はホテルでいいか? ルナマリア。俺のママを休ませたいんだ。」
「ああ、そうね。まずホテルに案内するわ。では、こちらです。」
ルナマリアが、案内してくれるので、それに一行はついていく。荷物は手荷物だけだから、そのまま動けるが、ニールはキラ隊? と、疑問に思う。キラがプラントで動く場合は軍服を着ることもあるとは聞いているが、それは仕事をする上でのことだと思っていた。それなのに、部下がいるとは思わなかった。おや? と、トダカの顔を見ると、あちらは苦笑した。
「キラ様は、ザフトで正式に士官としての地位をもっていらっしゃるんだ。普段は、各人の原隊で活動しているんだが、キラ様が命じると、キラ隊として活動することになってる人が何人かいるんだよ。」
「あれ? あいつ、オーヴの准将でしたよね? 」
「それももってるよ。カガリ様が任命した後で、ギルさんも任命しちゃったんだ。まあ、どっちでも仕事をするからね。無役だと何かと不自由だからさ。」
「俺もキラ隊では隊長補佐格です。シンはルナマリアと同じ副隊長格を拝命しています。キラさんが指示してくれると、そちらの役職で動けるんです。そのほうが権限が大きいので、今回も使わせてもらいます。ザフトアカデミーの見学とかは、そちらの役職のほうが都合がいいんですよ、ママ。」
「はい? 」
「だから、アカデミーの見学とかアプリリウスの公共施設の見学には、是非、俺たちと同じように制服を着てください。ママには、士官服、リジェネと悟空には一般服を用意してもらいました。写真をとりましょうね? 」
「トダカさんは? 」
「オーヴの士官服の手配をしてあるはずです。そうですよね? トダカさん。」
「ああ、私は退役組だけど、以前、着ていたのを用意させた。そのほうが楽だからさ。娘さん、なんなら、お父さんとお揃いで、オーヴの士官服を着るかい? そっちも用意させてあるよ? きみなら、きっと可愛い感じになるはずだ。」
作品名:こらぼでほすと プラント4 作家名:篠義