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りーなとレスポール

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 ▼△

「違う。もっと指を立てろりーな」
「簡単に言うけどコレ、結構イタイんだからね」
「Fが出来れば大抵のコードはできる。ガンバレりーな」
「んなこと言ったってぇ」
 カツ、カツ、シンデレラプロジェクト専用の部屋でコードにならない音がする。
 李衣菜はソファーに腰掛け、教えてもらいながらギターの練習をしていた。
 講師はまさに今、李衣菜が弾いているギター。ロック星人のレスポールだ。
「思うんだけどさぁ、別に弾けなくてもいいんじゃないかな?」
 両手を頭の上で組んで伸びをする李衣菜。
「ロック星人に連絡するためには、ロックをかき鳴らして人の心を震わせればいいんでしょう? だったらうまくなる必要ないじゃん。私のロックな歌声で地球全体を揺らして宇宙中に響かせれば、一人どころか、星中で迎えに来て送迎してくれんじゃないかなぁ。ギターはなんか、流してもらえばいいじゃん」
「確かにロックは技術ではない。しかし交信するためにはワタシも演奏に参加していなくてはならない。最低限ギターが弾けなくてはそれは成立しない。りーなは最低限ができていないからこうして練習しているんだ」
「ギクッ、返す言葉もない……」
 ロック星人の平坦な指摘は、李衣菜のソウルを深くえぐった。
「でもさー、弾けるようになったとしてもバンドメンバーいないし、お客さんもいないし、そもそも曲は何弾くの?」
「つまり弾けないと話にならないな、りーな」
「大人しく練習します」

 李衣菜はひたすらに練習した。
 レスポールの教え方はわかり易く、李衣菜は練習すればするほどメキメキと上達していく。
 

 そして一週間後、音楽スタジオでその成果を披露した。


 押さえたコードがスタジオのアンプから歪んで吐き出される。その音を体全体で感じると、李衣菜は嬉しさで身震いした。
「うっひょ〜〜! これだよこれ! サイッコーサイッコー、チョーサイッコー!」
「弾けるようにはなったな」
「なんでそんなこというのさ、こんなに上手くなったんだよ!」
 ボロボロジャンジャンカツンボロカッカッジャボンべーーーーン………ベベン。
「上手くはなったな」
「でしょお? いや〜〜一週間でコレほどまでに上手くなっちゃうなんて、やっぱりロックのために生まれて来ただけあるんだよなぁ〜〜。このままじゃアイドルよりも、先にロックシンガーとして世界に羽ばたいちゃうんじゃないかなぁ?」
「嬉しそうで何よりだ」
「まあ、それはいいとして……あの、さあ」
「トイレならば出て右だ」
 レスポールがアンプとシールドに繋がれたまま言う。李衣菜は頬をかいてもじもじ。
「そうじゃなくて! その、ありがとう……って言いたくてさ」
「何故だ」
「こんなにギター弾けるようになったの、レスポールのおかげだからさ、言っておきたくて……えへへ。で、でも、元々のポテンシャルが高かったコソの上達だからね! それを引き出してくれたのが、レスポールのおかげっていうか……」
「ワタシもりーなが喜んでくれて嬉しい気持ちだ。しかし本来言うべきなのはワタシであるしまだりーなには協力してもらわねばならない。その言葉はいささか早すぎるとワタシは思う」
「いいんだよ、伝えたい時に伝えるのがロックなんだからさ!」
 李衣菜は親指を立ててウインクした。
 レスポールは沈黙する。まるで感心しているような間だった。
「りーなには教えられることが多い」
「そ、そうかな。なんか、そう真面目に言われると照れるなぁ……」
 その時、ガチャッとスタジオの分厚い扉が開く。受付のにーちゃんが顔をだした。
「あのー、バンドメンバー募集のチラシ見たって人が来たんですが、お通ししますか?」
「え! 本当ですか! ああいうチラシって本当に人くるんだ、くぅ〜〜すっごいロックしてるじゃん私……!」
「よかったなりーな」
「うん! あ、お願いします!」
 にーちゃんが引っ込む。レスポールと会話している姿を怪訝そうに見られていたが、李衣菜は喜ぶので精一杯でそんなの全く気づいていなかった。
 男が三人入ってきた。
 チビとノッポとデブ。どういうわけか3人とも半袖でオレンジ色のTシャツにジーパンの出で立ちだった。
「こんにちは! えーと、三人ともお友達ですか?」
「待てりーな。様子がおかしい」
 3人に歩み寄ろうとした李衣菜は足を止めた。
「君たちが好きなロックバンドを教えてほしい」
 レスポールが質問するとチビが答えた。
「オアシス」
「あーハイハイ。オアシスね」李衣菜が頷く。「い、いいですよねー、こないだ新曲だしたばっかりだっけぇ? いいよねー、癒されるっていうか、ロックバンドにしてはちょっと落ちついてるっていうか……オアシスにはコレからもまだまだ頑張ってほしいですよね!」
「THE YELLOW MONKEY」ノッポが言う。
「え? サル? いやいやいやいや、知ってる知ってる! あのーあれね、あれ。……ゆ、UKロックにしては攻めてるよねぇ。ビジュアル系バンドって海外にもあるんだって感心しちゃったなー」
「ハイサイフューチャースター」デブが言う。
「最高! 沖縄の音楽を取り入れてるのが画期的で新しい音楽を提示している感じがあって好感が持てるっていうか! 解散したのは悲しいけど、あの子たちが残した功績は大きい!」
「おかしいぞりーな」
「ななななにが」
 李衣菜の耳が狼狽えるようにピクついた。
「ワタシの声は一般人には聴こえないはずだ。周波数はりーなにしか飛ばしていない。しかし今ワタシの問いに答えた」
「え? ど、どういうこと」
「拾える耳があるということだ。それを持っているのは地球人じゃありえない。つまり、」
 レスポールが言い終わる前にそれは起きた。
 ギターバッグのチャックを開けるような気軽さでパックリと3人の頭が開いた。李衣菜が叫ぶ暇もなく、粘着質な液をまとわせた物体が中から伸び出してきた。
 それはトランペットとバイオリンとピアノによく似ている。人の首から生えているそれの先端が、舞台照明のように光りだした。
「Dをおさえろ」
 李衣菜は視線を落とした。口をパクパクさせて目が見開いている。
「練習しただろう。Dを鳴らせ。早くしたほうがいい」
 ピキュン! 甲高いSEと共にビームが三本李衣菜に伸びる。
 命中して爆発。後ろの壁が崩落して受付のにーちゃんが悲鳴を上げて逃げた。
 煙が晴れてくる。
 李衣菜は変わらない姿でレスポールを構えていた。Dの英字を中心にして発生している透明な壁が、目の前に出現している。
「なにビーム、なにD、なに宇宙人?!」
「いいぞりーな、次はEだ」
「いいぞじゃなくて!」
「彼らはクールダウン中だ。今しかない」
「あぁあもう! こうなりゃEだ! ヤケ!」
 混乱しながらも李衣菜はEを掻きむしる。
 するとDの壁が光になって溶けアンプから発生したイナビカリが三人に直撃。骨を見せてシビレルと、湯気を立てて崩れ落ちた。
「こ、これってもしかして、石垣を爆発させたのと同じ……」
「本来のEは電流による攻撃だ。石垣に刻みつけたのはデモンストレーションでワタシが意図的に効果を操作したものだ」