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りーなとレスポール

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 黒焦げになっている宇宙人。抜けたスタジオの壁と壊れた機材たち。
 見回して李衣菜は青ざめた。
(私の音でこんな……)
「逃げるぞりーな。これくらいじゃヤツラの心肺機能を破壊できない」
 抜けた壁から受付を通って外にでる李衣菜。
「すぐに追ってくるはずだ。このまま人通りの多い繁華街まで走れ」
 ギターを抱えて必死に走る女子高生を街の人々が怪訝そうに見送っている。
「ロックアンチ星人たちだ。何処からかワタシが不時着したのを嗅ぎつけたのだろう。巻き込んでしまって申し訳ないがワタシを逃してくれ」
 李衣菜は口をギュッと結んだまま足を進める。
「怖がらせてしまったのならば申し訳ない。しかしワタシがロック星人である限り彼らは避けられない敵なのだ」
 繁華街の入り口が見えてきた。
 しかし李衣菜は左に方向転換した。
「待て。どこへ行くんだ」
 レスポールの呼びかけにも返事をせず、たどり着いた場所は取り壊し前のビル。
 エントランスホールの中程で立ち止まると、足音が一つ多く止まる。
「ロックはいいよ!」
 バッと振り返ると、首からトランペットが生えている人体が入り口に立っていた。
 普通じゃないシルエットに、李衣菜はたじろぎ汗を垂らす。しかし悲鳴を上げたり逃げるでもなく、明るく話しかけた。
「ロックってやつはさ、こう、胸のココに響いてくるんだよ。聴いたことないなら聴いてみて! 絶対に気に入ると思うからさ!」
 拳で胸を叩き、口角を上げて無邪気な笑顔を見せた。
 まるで首をかしげるように身体を傾けるトランペット。そして広いエントランスに自身の音をトランペットが反響させた。
「りーな」
「伝わったの?」
 レスポールに李衣菜が訊くと、短く答えが返ってきた。
「『ロックは不良が聴くものだ』」
 キィイン、あのビームの準備音が李衣菜の耳を刺激してくる。
「待って、やり合うつもりはないよ! 話しあおうよ!」
「りーなダメだ。彼らは聞く耳を持っていない」
「でも音楽で傷つけあうなんてそんなのダメだよ!」
「わかっている。しかしやらなければやられるんだ」
 李衣菜の後ろに長い影が伸びる。飛び出すのが待ちきれないとトランペットの丸い穴で光が膨張していた。
「Aだりーな」
「くっ、くっそぉお!」
 トランペットと着地点が光の線で繋がれ、爆発。
 李衣菜は煙から飛び出すと、一直線にトランペットに迫る。両手でネックを掴み、ボディで床をえぐっている。重たいハンマーを振りかぶるようにしてレスポールを頭上に振り上げた。
 チャージが完了していた二発目のビームをすぐさまトランペットが打った。
「どりゃぁああ!!」
 避けるような素振りもせずにクラッシュすべく振り下ろすと、その赤いボディがビームをぶっ叩いた。
 ビーム! ビームが殴られた時出す音がすると、ガラスが砕けるようにボロボロとビームがこぼれて無くなった。その衝撃は伝染してビリビリとトランペットの身体を痺れさせた。
 今しかないと李衣菜は、レスポールを砲丸投げよろしくぶん投げた。
「わからずやぁああ!!」
 回転しながら飛んでいき、トランペットの穴にスポンッとネックが刺さった。
 爆散した。
 床に刻み込まれたAの文字でくすぶる小さい炎。それだけのこしてトランペットは跡形もなく消え去った。
「ど、どええ……」